2020/02/19

解放感はクリエイティビティを豊かにする。田舎と都会の間で気が付いた「心の余白」の大切さ【美溢る ゆるみな】

※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。

このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

今回話をお伺いするのは、株式会社美溢る(びあふる)代表の渡部有未菜(わたなべゆみな)(以下、ゆるみな)さんです。18歳で生まれ育った秋田から上京し、現在24歳という若さにして、自身の事業を持つゆるみなさん。

彼女がプロデュースするのは、規格外(サイズが大きかったりなど、出荷規格に合わない)の果物や食用花を使ったクラフトビールブランド「BEERful」(びあふる)。

「自分自身がブランドに直結している」と語るゆるみなさんが見つけた、仕事にも自身にも心地よいライフスタイルについてお話をお聞きしました。

農家の娘×クラフトビール。生い立ちと好きを掛け合わせ輝くブランドプロデューサー

ハタケト:まず、ゆるみなさんのお仕事と事業のきっかけについて教えてください。

ゆるみな:BEERful(びあふる)という、果物や食用花を原料にしたクラフトビールを作っています。

わたしは秋田県出身で実家が梨農家なんですが、まだ食べられるにも関わらず形などの問題で捨てられてしまう梨をたくさん見てきました。

そんな廃棄になる作物を何とかしたいと考えていたことと、クラフトビールへの探究心が止まらなかったことが重なってBEERfulは生まれました。

(梨花一心(りかいっしん) 梨の花のように美しく生きる女性たちに、癒しを与えられますようにという想いが込められています)

ゆるみな:最初は仕事になるなんて思っていなくて。お試し程度に初めてクラウドファンティングで醸造したのが、実家の梨を使った「梨花一心(りかいっしん)」です。

「梨花一心」の成功を機に、色んな農家さんからご相談を受けるようになり、悩んでいるのは実家だけじゃないんだと気付きました。それで自分の事業にしようと、翌年に株式会社美溢る(びあふる)を立ち上げました。

自分を奮い立たせるつもりが、自分を消耗させていた「刺激

ハタケト:18歳で上京されたとのことでしたが、起業に至るまでの東京生活は如何でしたか?

ゆるみな:上京後はカフェの専門学校に通い、卒業後は飲食業界で働きました。わたしは刺激を求めて秋田から東京に出てきたので、フットワーク軽く外交的な場に参加していましたね。外交的な人と繋がれば繋がるほど「資金調達します」「〇〇やりました」「〇〇の実績がある」とか、すごい話がたくさん聞こえてきました。

最初は「自分も頑張ろう」と気持ちになれていたのですが、だんだん人と比較して焦りを感じるようになって。なんだか常に自己啓発本読んでる感じで、自分が疲れていくのがわかりました。

(Photo by しもだ なおと)

よくよく考えるとわたしは内向的な性格で、自分のことを話すより他者の話を聞くのが好きなタイプなんです。話を聞いて感情移入するのがすごく好きで。だけど外部からの情報が多すぎて「本当の自分の考えってどれだっけ?」と分からなくなっていきました。

自分を奮い立たせるためだった刺激が、いつのまにか自分を消耗させていたんです。

自分と向き合える解放的な時間の大切さに気づく

ゆるみな:そんな環境から逃れるように初めて一人旅に飛び出した時、わたしみたいな外交で自分を消耗してしまうタイプにとっては、解放感も大切なんだと気付きました。

(近所で見つけたみかん)

今になって考えると、行く場所も食べるものも、全部自分の好きなように決められたのがとてもよかったんだと思います。小さいことでも「わたしは本当にこれがしたいの?」と考えながら決めるのが、自分を見つめ直す時間になって。

上京してからの自分はただ刺激を受けていただけだったんだと気付きました。これまでを振り返っても自分と向き合って行動していた時の方がずっと成長していたのを思い出したんですね。

(Photo by しもだ なおと)

ハタケト:刺激を受けるだけではなく、自分で行動することが大事ということですね。

ゆるみな:自分の事業を何か持ちたいと考えるようになったのも、自分と向き合って行動していた時期です。

卒業後、始めは飲食業界で会社勤めをしていましたが、体調を崩して思うように働けなくなってしまったんです。

それで働き方を模索して接客業のアルバイトやライターの仕事など複数の仕事を掛け持ちしていた時期がありました。自分を見直しながら、色んな人に話を聞く中で、自分がやりたいことやってる人をかっこいいと感じるようになったんですね。

畑で受ける刺激は、小説や映画を見ている感覚に似ている

(Photo by しもだ なおと)

ハタケト:ゆるみなさんはブランドをプロデュースするにあたり、畑にいき、農産物を直接仕入れるスタイルを取られていると伺っていますが、それはなぜでしょうか。

ゆるみな:
作物・育った畑・育て上げた農家さんに直接触れたいからです。畑に行くことで、これから生まれる商品にどんなコンセプトが合うか、どんな人たちに届けるのが良いか、といったブランドの要素になるヒントをたくさん頂けるんです。

ハタケト:農家さんや作物が持っている魅力を発掘することが、ブランドの開発にプラスになるんですね!

ゆるみな:私自身が農家の生まれということもあるので、畑のある空間は自分の原点となる想いも再確認できます。畑にはヒントや刺激がたくさんあるのですが、東京で受けていた自分を消耗する刺激とは違うんです。

畑で会話するのは、普段の会話と全然違った感覚で。カフェなどで対面で会話すると、その人だけに集中するからか刺激を強く感じますが、畑で話す時は刺激が緩和される気がするんですよね。

広い景色を介して話を聞くからか、畑で得られる刺激は小説を読んだり映画を見ている感覚に近いんです。なので、感性を豊かにするクリエイティビティを高められることが多いですね。

(Photo by しもだ なおと)

妊娠の発覚と千葉移住。たどり着いた刺激と解放感のベストバランス

ハタケト:ゆるみなさんは最近ご妊娠がわかり、旦那さんがお住いの千葉に移住されたそうですね。東京で暮らしていた時とガラリと生活が変わったかと思います。ライフスタイルの変化の中で気付かれたことはありますか?

ゆるみな:今は東京にバスで40分ほどで行ける千葉県の木更津金田(きさらづかねだ)エリアに住んでいます。出産を控えているということもあり、仕事は徐々にリモートにシフトしていて、必要な時に東京に出る感じです。

(木更津にて)

ゆるみな:これまで東京で刺激8:解放感2でたくさん刺激を受けてきたからこそ、今の刺激2:解放感8の環境が心地良いなと感じています。

わたしは解放感が溢れる秋田、刺激が溢れる東京のそれぞれの良さを知っています。これから生まれてくる子供にも、刺激の世界と解放の世界の両方の良さがあることを見せて、多様な選択肢があることを伝えたいです。

ハタケト:どちらがいいという訳ではなくバランスが大事。とても共感します!

自分自身がブランドに直結する。ブランドプロデューサーとして必要な「心の余白」

タケト:刺激2:解放感8のバランスは、仕事面でも影響がありましたか?

ゆるみな実は移住の直前にも今後の事業について考えるあまり、解放的な時間をとらない時期がありました。マーケティングや経営学の本ばかり読んで勉強し、小説や映画など好きなものに触れなくなっていたんです。結果、肝心のブランドのアイディアが浮かばず、新商品の開発が滞っていました。

移住して一度休憩し、色んなことを断捨離しました。すると、ふと考える余裕ができたんですね。久しぶりに好きな映画や小説に触れたら感性が培われている感覚があって、アイディアが浮かんでくるようになりました

自分の今欲しいものや関心がブランド自体に現れて生まれてくるのを感じ、自分自身がブランドに直結していることに気付きました。最近では自身の身につけるものや振舞いにも「BEERfulブランドらしいか」を意識して生活しているほどです。

一個人としてだけではなく、ブランドプロデューサーとしても、ただ何かに追われる人生ではなくて、余白があって新しい感情を取り入れられる豊かな心を大切にしていきたいですね。

(Photo by しもだ なおと)

ハタケト:最後に、今後のブランドの発展に際して大切にしていきたいものを教えてください。

ゆるみな:ブランドは同じような感性、感覚の人が集えるコミュニティを形成するものだと思っています。

畑に限らないですが、目を凝らせば既にいいものを持っているのにって思うことが日頃たくさんあるんですよね。そういうものに少しでも目を向けて自信を持ってもらえるようなブランドをプロデュースしていきたいです。

同時に、わたしと同じように自分の感性を大事にしながら、プライベートと仕事の両方を頑張りたい女性を応援できるようなブランドでもありたいと思っています。

(「好き。」を伝える苺とバラのビール 苺花一愛(まいかひとめ)と一緒に)

(インタビューはここまで)

BEERfulのビールにはデザイン・ストーリー共に惹き込まれるものがあります。そんなブランドは、ゆるみなさんが自身と向き合い続ける中で紡いできた世界観から生まれていました。あなたが「刺激」と感じるもの、「解放」と感じるものは何でしょうか?#私のベストバランス#ハタケトをつけてTwitter・Instagram・Facebookでぜひ教えてください!

また、ゆるみなさんは「畑の魅力伝道師」として、「日常と畑の接点」をテーマに毎月コラムを執筆いただいています。(毎月第二木曜日)

次回のコラムは3月12日(木)夕方に配信予定です。ぜひお楽しみに!

ライター/わださえこ 編集/やなぎさわ まどか 撮影/しもだ なおと

INFORMATION

渡部 有未菜(わたなべ ゆみな)

渡部 有未菜(わたなべ ゆみな)

株式会社 美溢るCEO。規格外果物を使ったクラフトビールブランド BEERfulを企画・販売。秋田県の 梨農家の娘。現在は東京に住みながら、全国の果物を使ったブランドのプロデュースをしている。
コラムは毎月第二木曜 配信予定