※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。

様々な形で暮らしに「ハタケ」を取り入れている人やその暮らしの紹介を通じて、自然と自分、双方を愛せる生き方を提案するライフスタイルメディアです。

見てください。この弾けるような最高な笑顔!遊撃農家「はら農園」の原奈々美さんは、会社員と大好きな農業の活動を両立させています。

なにか挑戦したいことが浮かんでも、仕事があるから、または生活があるから、と出来ない理由を思い浮かべて最初の一歩が踏み出せなかったりしませんか?

原さんも不安を抱えながら、それでも自分のやりたいことや自分自身に向き合い、会社員をしながら挑戦できる道を探り、悩みながらも全力で行動して自分らしいキャリアを築いていました。早速お話を伺っていきましょう。

会社員としての休日は全国に援農へ

ハタケト:現在の働き方について教えていただけますか?

原さん:都内の人事給与アウトソーシング会社でフルタイムで働きながら、休日に「遊撃農家はら農園」の活動をしています。遊撃農家とは、『ナリワイをつくる』という本で提唱されている、自分の農地は持たずに繁忙期の農家さんに援農に行く働き方です。会社員も遊撃農家も、どちらも今年で6年目になりました。

(畑に行くことでその農家さんの性格も感じると言う原さん。三鷹の冨澤ファームさんでは、きれいな畝を見ながら「冨澤さんは几帳面な方だね」)

原さん:平日は会社員なので、遊撃農家としては週末に各地へ出向き、収穫や販売をお手伝いしています。収穫のお手伝いに関する対価はお金ではなく農作物でいただいていて、販売もする場合は、オンラインでの広報活動や商品の予約受付、決済手続きなどをわたしが行い、農家さんには箱詰めや発送作業をしてもらっているんです。その利益は自分の地方遠征の交通費として当てるためにいただいています。

ハタケト:ご自身で販売まで!フルタイムで働きながらだとかなり忙しそうですね。

原さん:それが、疲れていても農家さんのところに行くとむしろ元気になるんです!年によって増減がありますが今は7農園ほどお手伝いしています。どこまでをお手伝いするかは農家さん毎にさまざまですが、例えば収穫のお手伝いをする場合は週末に1泊2日〜2泊3日で援農に行き、農作物の販売もする場合は平日の通勤時間や就業前後のすき間時間を利用して、販売に関わる事務作業をしています。そうした事務作業は毎日ではないのですが、合算するとひとつの農家さんに月10時間くらいだと思います。

最初は会社員と両立させるのに苦労しましたが、人事給与業務では月間・年間でスケジュールがほぼ固定なのでスケジュールが立てやすく、閑散期には集中的に援農を重ねています。また会社の人にも遊撃農家の活動のことを伝えることで、「収穫期なので行ってきます!」と有給を取りやすくしています。

(農家さんは、真剣に仕事をするパートナー。会社では話さないような自分の話や社会の出来事なども安心して話せることが多い)

「やりたい」を諦めないために、働き方は自分でデザインする

ハタケト:どういった経緯で今のスタイルに行き着いたのですか?

原さん:大学生1年生の時に、サークルの先輩と教授に連れられて農家さんを手伝いに行ったことがきっかけです。そこから農業の魅力に取り憑かれたように惹かれてしまいました。

悩んだのは3年生から始まる就活の時です。農業系の企業も見ましたがベンチャー企業が多くて、「自分の強みも分からない状態でベンチャー企業に入っても何も出来ないのでは」と就職する勇気はなく、かといって食品系はなんだか違う…何を軸に会社を選べば良いか本当に悩みました。

また、自分が貢献したいと思っている農業分野に就職して、自分の価値が発揮できない故に農業が嫌いになってしまうのは怖かったんです。そこで、自分の強みを探しつつ農業と両立ができる会社を選べば良いのではないかと考えました。援農活動を続けるために、「カレンダー通りの休みであること」「スケジュールが見通せること」「キャリアを絞らない、社会性のある事業であること」に当てはまる会社を探して就活することにしたんです。その結果、新卒で人事給与アウトソーシング会社に就職しました。

(援農を続けていくうちに、楽しさだけでなく「農業に貢献したい」気持ちが芽生えはじめた)

ハタケト:最初から遊撃農家をすると決めて逆算したのですね。新卒の就活時にそこまで考えて決められるのはすごいですね。

原さん:その頃はまだどんな形で農業と関わるかは決められていなくて、そんなときに出会ったのが『ナリワイをつくる』です。本の中ではナリワイを「個人レベルで始められて、やればやるほど頭と体が鍛えられ、生きる技が身につき仲間が増える小さな仕事」と定義しており、「遊撃農家」が事例として出てきて、もう「わたしがやりたいことはまさにこれだー!!」って感じでした。

自分の強みを探しつつ3つの条件に当てはまる会社で働いて、副業的に農業活動をして農家さんとの関係も維持できる良い落としどころを探していたところ、本の中で伊藤洋志さんが「遊撃農家」というかたちで紹介していたんです。

会社員と両立したからこそ見つけたわたしの強み

(ハタケに来ると元気になる。「会社には行きたくない朝もあるけど、援農は嫌だと思うことは一度もない。そのくらい楽しいです」)

ハタケト:実際に会社員と遊撃農家を続けてみてどうですか?

原さん:6年間2つのキャリアを歩んできて、どちらもお互いに活きていると感じています。会社員としては事務をしていたので、農家さんとの事務連絡や受発注業務は得意分野です。反対に、農業は不確定要素が多いので臨機応変に対応しなくてはならないですし、農家さんとの関係もトライ&エラーを繰り返してきたので、本業でも色々な方法を考え、諦めずに結果を求めるようになりました。

「こういうお願いの仕方だと負担なんだな」「こういう提案をすれば一緒に企画を進めやすそうだな」など、タイミングや伝え方で農家さんの反応が全然違うんです。伝わる説明の仕方や提案力が身に付きました。

実は遊撃農家をしてきた中で自分は企画することが好きだと気づいたため、会社員5年目に事務から企画に異動させてもらったんです。大きく業務も変わりましたが、企画に異動してからは更に相乗効果を実感できています。自分で販路を開拓するために試行錯誤していたSNSの発信や写真の撮り方など、小さな実験を繰り返してきた遊撃農家としての活動の全てが、会社員としてのわたしにも役立っていると感じています。

(農家さんの多くは、社長や経営者でもあるため、一緒に活動することで仕事に関する気づきや刺激も受けている)

原さん:キャリアは一つに絞らず自分の強みを探しつつ、農業の中での自分の立ち位置を探し続けてきた6年でしたが、その答えが最近見つかってきた気がしてるんです。

わたしの強みの1つは、外部を巻き込む力。農家ではないわたしだからこそ、農業に全く関係ない人でも巻き込める。わたしが農業や農産物の良さをきちんと伝えることで、適正な価格でお客さんに買ってもらえる。わたしが橋渡しとなって収穫ツアーをすることで、農家さんは作業に集中でき、参加者さんにも楽しんでもらえる。わたしは別々の業界の人同士を繋ぎ合わせて、化学反応を起こすことが好き、且つ得意なのかもと感じてきました。

もう1つはプロジェクトマネジメント。遊撃農家としてゼロから農家さんとの信頼関係を築き、販売を任されるようになり、販売方法や企画を考え実行する。会社員としても企画提案をするという事を何度も繰り返し経験した結果、自信が付いてきました。

これらのわたしの強みを活かして「農業に携わる人を増やすこと」が、わたしが農業へ貢献できる方法だという考えに至りました。

(農家さんに提案する際は、実現させたい気持ちだけでなくタイミングを合わせることにも気をつけている)

ハタケト:自分の強みが見つかってから遊撃農家の活動に変化はありましたか?

原さん:過去の自分では出来なかったものが価値として提供できるようになってきました。例えば商品開発。佐藤錦という有名なさくらんぼの品種があるんですけど、収穫するためには受粉用の木として紅さやかという品種も近くに植えなきゃいけないんです。そのため佐藤錦の畑には2〜3本の紅さやかが植えられてるんですが、農家さんは佐藤錦の収穫に追われてしまうので、いつも紅さやかの収穫までは手が回らなくなってしまうんです。でも紅さやかもおいしいさくらんぼなので、昨年初めて、遊撃農家チームで収穫から発送まで全部担当して販売しました。いろんな人に買っていただき好評で、農家さんにも新しい売り上げを作り出せたということがとても嬉しかったです。

また、自治体と協力して関係人口をつくるためのツアーを企画させてもらいました。農業や地方での活動に関心のある方を招き、農作業体験や、農業をきっかけとした地域活性の方法を自治体や地元の食品メーカーさんと議論するといった内容です。その結果としても大きな変化がありました。今まではこちらからお手伝いさせてもらう農家さんをいわば営業して探していたのに、声をかけていただくことが増えたんです。農業に興味がなさそうな友人が突然みかんを買ってくれることもありました。今までやってきた遊撃農家の活動は間違っておらず、誰かが見てくれている、必要とされているんだなと実感しています。

更にやりたいことを実現する道へ

原さん:声をかけていただくことは嬉しく思う反面、逆に求められているものが返せない事も増えてきました。農家さんに「みかん10トン売ってくれない?」と相談されても難しくてお断りするしかなかったり。自分ひとりの力では出来ないことを乗り越えるためには、誰かと一緒に立ち向かう、資金を調達する、新しいビジネスモデルを生み出す、といったことが必要だと感じています。今の遊撃農家のかたち以上に農業に貢献するにはそういう力を身につけないと出来ないな、と。 

わたしの中では遊撃農家の活動を通して農家さんに貢献することが第一で、次に生活を安定させることが大事なんです。ただ遊撃農家はお金をもらう訳ではないので、お金は仕事で稼がなくてはなくてはなりません。「もっと農業に貢献できるスキルを会社で得て、遊撃農家の活動に還元したい」とずっと思っていたので、最近、転職することを決めました。

ハタケト:先ほどご自身の強み・農業の中での自分の立ち位置が見つかったとのことでしたが、更にパワーアップしたいということでしょうか?

原さん:そうですね。初めての転職ではあるのですが、実は転職活動は今回で3回目なんです。自分の中に迷いがあることを見抜かれて最終面接で落ちてしまったり、内定を頂いて会社に退職を申し出た後で不安になり転職を撤回したこともありました。ただ自分の強みを認識した今ならば、農業分野でも貢献できると確信できたことに加え、強みを活かして経験を積みたいという欲が燃え上がっているんです。やっと、農産物の商品開発やブランディングを行うベンチャー企業で働くことを決めました。

今までは農業分野でお金や価値を生み出す自信も覚悟もなかったわたしですが、腹をくくり、会社員と遊撃農家の2つのキャリアで相乗効果を出し、より一層農家さんに貢献していきたいです。

(インタビューはここまで)

心配性な性格とどんどんチャレンジする勢いのある性格、どちらの面も持ってる原さんだからこそ、会社員をやりつつ遊撃農家として農業に貢献するというバランスの、原さんだけのキャリアに行き着いたのだと感じました。

自分のやりたいことが出来る環境を逆算し、その環境を手に入れる。自分の強みが分からないながらも走り出し、自らと向き合い挑戦することで自分の強みを手に入れる。強みを手に入れたら、更に自分のやりたいことに向かって羽ばたく。弱さがありながらも意思を持って一歩ずつ進み、自分の人生の手綱を自ら握っている原さんのお話に、とても勇気をいただきました。

キラキラした笑顔で前向きなパワー溢れる原さん。自分の人生の手綱を自ら握り歩んでいるからこそ、自然と外に出てしまう心の表れなのでしょう。こんな風にわたしは笑えているのか、と自分を見つめ直したくなりました。

ライター/あっつん 編集/やなぎさわ まどか撮影/しもだなおと

今月のテーマは「ハタケと会社員」。あなたらしく働くための工夫や考え方などもぜひ、ハッシュタグ #ハタケと会社員 で教えてください。ハタケトへの感想やリクエストなどもお気軽にどうぞ。お待ちしてます!【Twitter】【Instagram】

また、過去にハタケトに登場した方々に学び、自分らしい農や食との関わり方を叶えていくコミュニティ「ナエドコ」は年に3回メンバーを募集しています。同じ思いをもつ人たちとつながり、励まし合いながら自分らしい道を見つけませんか?

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INFORMATION

原奈々美(はら・ななみ)

原奈々美(はら・ななみ)

遊撃農家はら農園代表。平日は会社員、週末は遊撃農家のパラレルワーカー。自らの農地をもつのではなく全国の農家を援農し、販売代行や商品開発などのサポートを行う。農家を尊敬し、農業に貢献できるかたちを探し求めてデザインしてきた2つのキャリアは共に6年目。