※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。

このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

はじめまして。食と農と社会課題をテーマにしているライターのやなぎさわまどかです。日頃は皆さんと同じように「ハタケト」のいち読者でもあるわたしが、「畑の魅力伝道師」として参加させてもらえるとは、とても光栄です。

毎日パソコンに向かって仕事をする傍ら、自分なりの家庭菜園を楽しんでおりますので、ここではどうぞ、私のかわいいかわいい畑の様子をお伝えさせてください。(畑や野菜を「かわいい」と形容することが許されるのは、ハタケトの素晴らしい文化ですね!)

スタートは会社員時代、マンションのベランダ

今の住まいは神奈川の山間部、少し車で走れば山梨との県境で、津久井というエリア。ここに越してきて3年になります。家の裏手に借りている畑はほんの0.5畝(せ)(約50㎡)ほどで、もうすぐ3回目の春まきシーズンを迎えます。

津久井に越してくる前は2年位、この地域と横浜のマンションの二拠点生活をしていました。週に数回、農家さんのお手伝いをしながら畑の一画をお借りし、少しだけ自分たち用の菜園をさせてもらっていました。

またその前は、横浜のマンションのベランダが最初のマイ畑(プランター)です。トマトや茄子、葉野菜や香味野菜など、それなりに作れていた記憶があります。

当時はまだ会社員で、毎日ハイヒールを履いて南青山のオフィスに出勤し、ネイルも長くて、それでも会社帰りに有機栽培農家さんの講演を聞きに行ったりしてました。受付で隣のセミナーに案内されたことがあるので、やや浮いていたかもしれませんが(笑)。

こう振り返ってみると、見よう見まねからでも自然栽培(農薬も肥料も使わない栽培)に挑戦しだしてもう7年近いことに驚きます。環境的な移動もあって、7年経っても畑はまだまだうまくいかないことばかり、試行錯誤の日々です。

いつかは近所のおかあさんたちのような、野菜づくり名人になりたいですね。

去年は大きなスランプ。ぜんぜん育たない野菜たち

取材などに出掛ける以外、普段は自宅をオフィスにして仕事をしているため、裏の畑にはいつでも行けて気になることがあればササッと畑仕事ができる…はず、なのですが、現実はなかなかそうもいきません。

特に2019年は、仕事の忙しさや家族のこと、週単位の留守状態、また、夏の長雨で作業日が調整できないなど、畑作業のタイミングが激減してしまいました。雨と日照りを繰り返しながら管理者が来ない夏の畑は、もちろん草が伸び放題。

タネをまいても芽が出なかったり、苗もあまりいい状態に育てることができなかったり、なんだか、いろいろ悩ましさが残る「全体的にうまくいかない」畑になってしまいました。

スマホで去年の写真を見ると、前年はおすそ分けするほど採れていた季節野菜が少なくて、代わりに、畑に勝手に生えてくる、カラスノエンドウ、よもぎ、紫蘇、スベリヒユといった野草の収穫をしていたことが思い出されます。

ご近所やお世話になってる農家さんからのお裾分けにも助けられ、おかげさまで自宅でいただく野菜が不足したりはしませんが、草ぼーぼー状態の畑を眺めては、作付け計画がうまくいかない自分にもうガッカリ、という気分。

スベリヒユは夏の疲れを癒し栄養満点で勝手に生えてくれるありがたい存在ではあるのですが…)

気持ちを切り替えて思い出したこと

農家さんに相談したり、農業本を読み返したり、以前通った菜園セミナーのメモを見返すなど、初心に戻る気持ちでタネと土について考えるうちに、ハッとした瞬間がありました。

それは「タネは自分の命を繋げるために成長している」という、あまりにも当たり前のことを再認識した瞬間です。

わたしが畑作業しようとしまいと、野菜は自分たちの命を全うするために芽を出して根を張るか、もしくは、なんらかの要因で成長をやめる決断をするか、それだけのことでした。

忘れていたわけじゃないのですが、でも意識から抜けていたのも事実。あまりにも畑がうまくいかないことが続き、タネをまきながら「この芽も出ないかも…」と心のどこかで思っていたことも否めません。

勝手にいじけてたんです、野菜ではなく、私が

そんなんで芽が出るわけがない!命が全うできるわけがない!と心を改め、自分のできる範囲で畑のお世話を再開したら、なんとか、やっと、秋まきの大根が立派に育ってくれました。

大根のタネは3粒まきしているので「間引き」をします。実は、間引きの時点で「今回こそはちゃんとできそう」という予感がしました。自信喪失期間なので誰にも言いませんでしたが(笑)、それくらいふた葉と茎がしっかり感じられたんです。

そのとき、力強いふた葉に感謝が込み上げてきて、間引きしながら涙腺がゆるみました。

間引きによって大きく成長していく大根。葉は外向きへ広がり、真上から見ると丸いマンダラ型となって等間隔に姿を魅せます。しばらくすると、1本、顔が見えるほど成長した大根がありました。

季節はすでに山間部らしい冷え込みになっていましたが、地上にしっかりと顔を出したその顔は勇ましくも見える表情で、まだほとんど顔を出してない他の大根たちの先導を取るようにも見えました。

あーよかった、ちゃんと大根できたー!と確信できたら自然と涙があふれ出し、抜いた大根を眺めているうちに涙が止まらなくなり、膝をついて泣きました(まじです)。

大根は土を洗い落としたときに現れる透明感がすごい輝きなのですが、その美しさにキッチンでもまた感涙。

数日後からはだんだんと他の大根も顔を出し始め、あぁ、真冬でもちょっとずつ成長しているのか、と大根たちの健気さにひと泣きして、抜いて土を洗いながらまた「美しい…」と目を潤ませる。

いやはや、今シーズン何回大根で泣いたことでしょう。一体なんの涙なのか、あえて言葉にしたら「感動」か「感謝」の涙だとは思うのですが、改めて、家庭菜園の魅力に包まれた気がしています。

もうすぐ始まる新しい春まきも、タネに備わった育つ力をサポートする気持ちで楽しんでいきたいと思います。

ライター/やなぎさわまどか

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