2021/07/27

新鮮な小麦はおいしい味がする。小麦と助け合う畑の話

子どもが「育つ力」を信じて、日々の子育てを楽しんでいるファーミング・ベアこと、農家のベアくん。友人の都市りすくんは、ベアくんの考えに共感し、もうすぐ始まる自分の子育てに向けて準備中です。一緒におやつを作りながらベアくんのお話を聞くりすくん。材料のひとつである小麦粉も、ベアくんは挽くところから始めます。(前回の内容はこちらから)

登場人物

小麦の形、知ってる?

ベアくん、これなぁに?

わたしが育てた小麦だよ。小麦は畑で栽培して収穫後、穂先を乾燥させるんだ。これを石臼で挽くと小麦粉になるんだよ。

ほえ〜!これが小麦粉になるんだね、初めて見たよ!

なかなか見る機会がないかもしれないね。

わたしたちが食べている小麦の8割以上は外国で栽培されたものでね。手頃な値段で輸入されるようになってから、日本では小麦を育てる農家が減ってしまったんだけど、昔はどの農家も野菜と小麦を組み合わせて農業をしていたんだよ。わたしは夏に野菜を、冬に小麦を育てているんだけど、組み合わせて栽培するといいことがたくさんあるんだ。

吸収されなかった栄養のゆくえ

組み合わせるとどんないいことがあるの?

野菜は与えた栄養の全てを吸収できるわけじゃないから、収穫した後も土の中には栄養が残っているんだよ。残った栄養はその後どうなると思う?

考えたこともなかったなぁ。栄養がたくさんあるのはいいことじゃないかな?

次に育てる作物がある程度は吸収してくれるんだけど、それでも吸収されなかった分は雨などによってゆっくりと地下水に染み込んでいくんだ。それはやがて、水中や水辺で暮らす生き物だけでなく、わたしたちを含む水が必要な生き物全体にも影響を与えかねないんだよ。

例えば、地下水の中に肥料の窒素が増えてしまうと、富栄養化といって栄養が多すぎて異常に繁殖してしまう生き物がいたり、飲み水に過剰な窒素が含まれることで病気になりやすい生き物もいるんだ。

畑で与えた栄養が、水を介して他の生き物にまで影響するだなんてびっくりだよ。

自然は全て繋がっているんだよね。わたしは自然に近い状態が野菜の健康にとっていいと感じているからこそ、できるだけ自然環境を保てるような農業がしたいと考えたんだ。そのために選んだのが小麦の栽培なんだよ。

即効性よりも、長い目で

小麦を育てると自然環境にもいいの?

想像してみてほしいんだけど、野菜を育てて収穫した後の畑には野菜のことが好きな虫や病原菌が残っているんだよね。続けて同じ野菜を植えると、その虫や病原菌の「大好きな食べもの」を与えているようなものだから、農家としては虫や病気を避けるための対策を考えなければいけないんだ。

殺虫剤や農薬は即効性があってとても便利だけど、虫も病原菌も生き残るために適応してどんどん強くなるから、戦い始めたらキリがない。排除するのではなく、戦わなくてすむ方法を選んだ方が、長い目でみたときに効率的だと考えたんだ。

農業以外の色々なことに通じそうだなぁ。

小麦を栽培すると、虫や病原菌との戦いをやわらげることができるんだよ。野菜と小麦、もしくは小麦と同じイネ科の作物では集まる虫や病原菌の種類が違うから、夏に野菜、冬に小麦といった順番に育てると、それぞれを好む虫や病原菌を順番に減らすことができる。そうすると、殺虫剤や農薬を減らせるんだ。

小麦は寒い冬でも育つし、穂先を収穫した後の茎は乾燥させて藁にして肥料として土に使うと、栄養が流出しにくい土になって、さっき言ったような地下水への影響も防げるんだよ。

現代ではビニールハウスなどを使って季節を問わず、冬でも野菜を育てられるようになったから、小麦を組み合わせる農家はほとんどいなくなってしまったけれど、本来の旬に合わせて作物を育てるといいことがたくさんあるんだよ。

身近なところから始める循環

でもね、最初こそ畑の状態を整えるために小麦を栽培し始めたけど、今では単純に、自分で作る小麦がおいしいから栽培を続けているよ。挽きたての小麦のおいしさといったら、最高なんだ。

小麦そのものに味があるの?

そうさ、小麦はとってもおいしいんだよ。収穫した小麦を初めて製粉して味わったときは、本当に感動したなぁ。でも始めに話したように、日本では小麦を育てる農家が少なくなってしまったから、挽きたての小麦粉を味わったことがある人が少ないのも当然だと思う。それに、新鮮な小麦粉をたくさんの人に手に取ってもらえるような販売方法や価格で届けるのはとても難しいことなんだ。

わたしの場合は、近隣の飲食店におすそ分けしたら食材として使ってくれるようになったのが口コミで広がって、今では冬の小麦を余さずに活かせてる。畑と同じように商いも、無理なく循環できる方法を選ぶのが幸せだと思っているよ。

都市りすのひとこと

小麦を切り口にして、環境やお仕事の仕方まで考えられちゃった。ひとつのことが色々なことに繋がっていて、影響しあっているんだね。想像を広げるとたくさんのことを学べるな!

ベアくんからのお知らせ

新鮮な小麦のおいしさをおすそ分けしたくて、挽きたての小麦粉でクッキーを作ったよ。挽いてから10日以内の味わいを知ってもらえたら嬉しいな。HPはこちらから。


次回のテーマは「甘いものとの付き合い方」。甘いものが大好きなベアくんはどんな工夫をしているのでしょうか?お楽しみに。

ライター/わださえこ 編集/やなぎさわ まどか

INFORMATION

Farming bear(ファーミング・ベア)

Farming bear(ファーミング・ベア)

農家のクマ。2人の子どものお父さんでもある。
小麦やお豆、野菜など、家で食べるものはほとんど自分で作り、
いい土づくり、病気になりにくい野菜づくりを大事にしている。
子育てには、野菜を健康に育てる方法を応用。
農家ならではの食育や子育ての知恵や考え方を教えてくれる。