2020/01/22
異端児のレッテルも失敗も怖くない。 すべては子ども世代のために、悪しき連鎖はここで断ち切る!
※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。
このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。
農家なのに、ギフター?「Apple Gifter」工藤秀平
今回話をお伺いするのは、青森県のりんごの一大産地、津軽地方内にある広船という地区で農家をしている工藤秀平(くどう・しゅうへい)さんです。現在31歳で農家としては9年目を迎える工藤さんは工藤農園の園主兼、「Apple Gifters」という販売法人の社長も務めています。
ほとんどの農家が市場出荷を選択している一大産地で、自身は共感し合う仲間とりんごを直販する活動を行なっています。「異端児」と見られることが多いと言う工藤さん。そんな工藤さんの原動力とはなんなのか。本人に迫ります。
農園経営の最大の課題は『親ブロック』!?
ハタケト:工藤さんは自ら「Apple Gifter」と名乗り、直販ブランドを立ち上げるなど、他の方とは違う精力的な活動をされていますね。そのきっかけや理由はなんなのでしょうか。
工藤さん:最初のきっかけは、大学時代に友達の誘いで東京のマルシェでりんごを販売したことです。はじめて直接お客さんと対峙し、「おいしい」という反響をいただき、大きな刺激を受けました。
工藤さん:「お客さんに一番おいしい状態のりんごを届けられるようにしたい」と思い、生産をお客さんが食べるタイミングに一番おいしい状態を迎える「適期栽培」に切り換えたいと考えるようになりました。ただ、当時園主であったぼくのじいちゃんに、ぼくの主張は全く理解されませんでした。じいちゃんとは死ぬほど喧嘩しましたね。ヒートアップして窓ガラスを割ったこともあるくらいです。
ハタケト:まじですか…。
工藤さん:ぼくは4Hクラブという若手農家が所属できるコミュニティの運営に携わってきましたが、だいたい若手農家の悩みは共通しているんです。ずばり若手農家にとっての最大の課題は、親世代による挑戦のブロックなんです。ぼくがじいちゃんと対立したように、各地の跡取り息子は親に挑戦を理解してもらえなくて、やりたくても動けない状況にいます。
親世代には親世代が信じてきたやり方があるので、話し合って理解してもらようとしてもダメなんです。だから反対を押し切って、勝手にやって成果を出す。これしか方法はありません。それで「Apple Gifter」と名乗り独自に直販をする活動をまずは1人ではじめました。
ハタケト:反対を押し切って独自の活動をするのはとても勇気のいることだったのではないかとお察します。
工藤さん:あるとき、4Hの過去の広報誌40年分に目を通すことがあったんですが、それを見て驚きました。そこには親世代も自分の親の世代にやりたいことを否定されて喧嘩していたという歴史が刻まれていたんですね。皮肉にも自分が嫌な思いをしたのに、それを次の世代に対しても繰り返してしまっている。この連鎖を立ち切らなければと強く思いました。
だから、自分が挑戦することに迷いはなかったです。失敗することも怖くはありませんでした。だってその失敗もモデルになるじゃないですか。
連鎖を断ち切るにはロールモデルの存在が必要だと思います。ロールモデルがいれば仮にその人が失敗しても次が続く。自分がそのロールモデルになろうと思ったんです。
子どもができて、さらに強まったチャレンジ魂
ハタケト:工藤さん、確か最近子どもも産まれましたよね。そのことも何かマインドに影響していたりしますか。
工藤さん:もうすぐ1歳半になる息子がいます。子どもが産まれたことで働き方や考え方の面は確かに変わりましたね。
工藤さん:働き方でいうと今までは声がかかれば全部行っていて、月2回は東京に行くくらいだったのですが、今は畑にいる時間と子どもとの時間を増やすよう調整しています。スケジュールも子どものイベント優先で組んでいます。それができるように究極、ぼくが畑に行かなくても回るほどの人を入れています。とはいえ、自分が畑に行かないと木の品質が悪くなるのでもちろん畑には行くのですが、昔みたいにアホみたいに仕事をすることはなくなりましたね。
一方で、挑戦していこうという決意は強くなりました。うちの子が将来農家をやりたいと思ってくれたとき、若い農家が周りにいっぱいいて欲しいと思ったんです。そのためにも彼らの世代にバトンを渡すまでに、農業をやりたい理由を増やして、やりたくない理由を減らす努力をしておきたいです。
ハタケト:具体的にはどんな挑戦をしようと思っていますか。
工藤さん:広船は人口1000人を下回り、人口減少が続いています。ただ幸い、自分の周りに20〜30代の後継者たちは沢山いるんです。地域の青年部が維持できないところもありますが、広船は30人くらい青年部がいるんです。だから自分1人がどうこうするというより、微力ながら仲間のお手伝いにもなることを選んで挑戦していきたいと思っています。
具体的には販売・経営に関する知見を積んで、同世代や後輩たちシェアしていきたいです。というのも、ぼくは栽培の才能はないと思っています。同じ年に始めた人と比べたら下手で、上手くて若い人は周りにいっぱいいると感じています。だから栽培については積極的に仲間から学ばせてもらって、反対に販売・経営については頼ってもらえるようになればお互いにとっていいと考えています。
ハタケト:その割り切りができているのがすごいと感じるのですが、そのようにできたきっかけはありますか?
工藤さん:ぼくもはじめは全部自分でやりたかったですよ。でも、じいちゃんとの喧嘩に疲れ果てていた頃、年間100冊のビジネス書を読み漁った時期があったんですね。親族内の喧嘩だとどんどん人格否定に陥りがちなところがあって、冷静な課題の議論がでできるようになりたいと思ったのがきっかけでした。
そこで勉強していくと、何でもかんでも自分でやるのではなく分業したほうがいいということに気づいたんです。何から何まで自分でやっている会社はない。いろんな人が社内外にいたりして助け合うから成果を出せると学びました。だからぼくも自分の専門性も高めて、他の専門性の高い人と仕事をして成果をだしていきたいと思うようになりました。
加えて広船は村の7〜8割はりんご関係者というのもあって、もともと地域の繋がりも強く、技術を共有しあってきた歴史があるんです。ぼくも村の勉強会とかで先輩方にたくさん教えてもらったので、そのお返しをしたいという気持ちもあります。
投資したものは必ず帰ってくる
ハタケト:周りからどんな存在と思われるようになっていたら工藤さん的に「成功したな」と思いますか?
工藤さん:オラオラの経営者ではなく「あいつは地域に貢献している」と思われていたいですね。今後、みんなを巻き込んで、一緒によくなりたいという気持ちが強いです。水利権のこともありますが、そもそも農業って地域全体でよくならないと良いものが作れないと考えています。
特にぼくたちが作っているりんごは同じ木から毎年実をとる「永年作物」です。永年作物の場合、例えば今年欲張ってたわわに実をならせたとしても、次の年はあまり実をつけてくれないんですよ。
ハタケト:無理をさせると、次のクールで頑張れない、ということですか?なんだか人間みたいですね。
工藤さん:そうですね。だから収益を増やすにはいかに無理をさせすぎずに、毎年の平均点をあげていくかが大事になってきます。地域にも同じことが言えると思っていて、1人が気張って成果を独占しても、のちのち苦しくなるのは自分なんだと思うんです。それよりもみんなで長い目で少しずつ平均点をあげられるようにしていきたいです。そのための投資は惜しみません。例えば先日、販売・経営面で成功している栃木県の梨農家「阿部梨園」さんを青森にご招待しました。来ていただく交通費は自費で出しました。でもそれは自分が同じ旅費かけて行っても1人しか勉強できないけど、来てくれればみんなも勉強できると思ったのでむしろお得だったと感じています。
ハタケト:みんなのためにそこまで…!投資することに躊躇したり、不安に感じることはありませんか?
工藤さん:一見自分が背負っているようで、投資したことは、結局みんな自分に帰ってくるんですよ。そう思えるようになったのは本を沢山呼んだからからですね。成果を出している経営者の自伝などを読むと、やはりちゃんと帰って来ているものなんです。仮に失敗してもそれをやめればいいだけですし、迷いはないですね。
ハタケト:すばらしいです。子どもの代に引き継ぐまでに、平均点が少しでも上がっているといいですね。
工藤さん:実はぼく、りんご農家ですが一番好きな果物は「みかん」なんですよ(笑)。だから子どもが就農する歳になったらさっと経営権を引き継いで、その後は気ままはみかん農家になりたいな、なんて思っています。そんな夢が叶えられるように、今頑張っていきたいです。
(インタビューここまで)
子どもの世代の若者たちがやりがいを持って畑に入ってきてくれるように。そのためには自分が異端児になるのも失敗するのも問題ないと言い切れる工藤さん。
畑は世代を超えて引き継ぐものだからこそ、親との関係性に苦労するという話もありましたが、その負の連鎖を打ち切っていこうとする姿勢に畑の明るい未来を感じました。