2020/01/29

うちにはうちの魅力がある コンプレックスを乗り越えた小農園の挑戦

※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。

このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

今回ご訪問したのは海老名市で代々畑を続けている市川農園さん。その現代表で27歳の市川晋(いちかわ・しん)さんにお話を聞きました。

周りはすべて住宅に。唯一残された小さな農園

神奈川県海老名市は人口減少が進む日本の中でも人口が増えている町のひとつ。

海老名駅を降りると、大きな商業ビルが直結し、買い物する住民の賑わいがあります。

そんな海老名駅から歩くこと15分。比較的新しい造りの住宅エリアの中に、ぽつんと昔ながらの日本家屋が。出迎えてくれた市川さんに連れられ、家屋の奥に進むとそこにあったのは…住宅に囲まれた「農園」でした!

市川さん:びっくりされたでしょう。うちは畑と田んぼ合わせて60アール(6000㎡)と決して広い農園ではありませんが、ここで野菜と果実、そしてお米を代々栽培しています。畑のところどころに果実の木があるのでぜひ紹介させてください。

柿の中でも高級で知られる「富有柿」の木。
代々の先祖が思い思いに剪定してきたので枝がガタガタと微笑む市川さん。
隣にあったのはなんとキウイ!
奥の畑の端にあったのは梅の木。
さらに奥にはイチジクの木が。いちじくにはちょうど食べごろな実がなっていました。
(取材当時)
美味…!!!!!!
さらに一本通りを挟んだ畑には、栗と柿の木がたくさん!
まるでジブリの世界観のような空間です。
この栗はもう過ぐ食べごろ(取材当時)

ハタケト:こんなに近い距離にいろんな農産物や表情が違う畑があってとてもワクワクします!

市川さん:喜んでいただけて嬉しいです。市川農園の全体像を妻が図にしてくれました。

まるで農産物のテーマパーク!

自分の手で、確かに喜ばれるものを届けたい。

ハタケト:市川さんは27歳ですが、すでに園主でいらっしゃいますよね。いつ畑は継ぐことになったのでしょうか。

市川さん:専業で畑に関わる決意をしたのは昨年の1月です。それまでは祖母が基本1人で続けている状態でした。そのため、「継ぐ」ことを家族から期待されている環境ではなかったのですが、小さい時から祖母の背中について畑作業を見てきて、幼心に「継げればいいな」と思っていました。

ただうちはいわゆる「兼業農家(農業以外の収入源を持っている農家)」で、実家も農業だけで生計を立てているわけではありませんでした。親も農業を継いではいません。だからわたしが祖母から畑を引き継いだとして、やっていけるかはずっと不安に感じていました。ただ「農業に関わる仕事をしたい」とは思っていたので、大学は農学部に進学しました。

ハタケト:農業に小さい時から惹かれていたのですね。

市川さん:小学校4、5年生のとき、祖母のサポートを受けながら自分でスイカを作ったことがあります。そしてそのスイカを軒先で販売してみたんです。行き交う人に声かけて販売しました。そこで自分が作った農産物で人が喜んでくれる喜びを知ったんです。この体験が忘れられなくて、ずっと農業に惹かれてきたように思います。

ハタケト:大学卒業後、すぐに農園を継いだわけではないですよね。

市川さん:大学卒業後は、野菜宅配会社に入社しました。会社の「消費者と生産者をつなぐ、架け橋になる」「農家と食べる人をつなぐ」という言葉に惹かれたことが入社の決め手です。

そこで物流関係の部署に配属を受けました。仕事はとてもやりがいがありましたが、会社が成長し規模が拡大するにつれて、どんどん実際の作り手、食べ手の顔が見えなくなってきていることにモヤモヤが募っていきました。仕組み上仕方ないことではあるのですが、例えば北海道のお客さんが野菜セットを注文した場合、そのセットの中に北海道産の野菜があったとしても、会社的には一度関東の工場に集荷して、他の農産物と一緒にパッキングしてからお届けする形になります。頭では理解できても、近い様で遠くに運ぶ仕組みに違和感を持たずにいられませんでした。そのため今までずっと持ってきた不安を飛び越えて、思い切って実家の畑を継ぎ、自分自身で作った農産物を心の通じる範囲の方に届けていくことを決意しました。

ハタケト:軒先きでスイカを売って喜んでもらった原体験と照らすと、大規模に流通する仕組みが心に引っかかったことや、農家になる決断をされたことはとても理解できます。

市川さん:顔の見える関係性の中で自分が確かにおいしいと思うものを届けたいという思いがあるので、農家になってからは旬の時期に旬のものしか作らないことを徹底しています。科学的にどうか分かりませんが、実際に自分が食べて「おいしいな」と感じるのはやはり旬のものなので。単純に、そうじゃないとうまく作れないというのもあるんですけどね(笑)。

取材当時旬を迎える直前の落花生。

地元の人が立ち寄りたくなる農園へ

ハタケト:農業で生計を立てる難しさを感じていた、というお話を踏まえると、農家、しかも専業でやるというのは大きな決断だったのではないですか。

市川さん:会社員時代から、土日は畑の手伝いをしながら、たまにtwitter経由で農産物を売ってみたりしていたんです。それで実際、買ってくれる人が増えてきていました。専業になったのは正直勢いも大きいですが、その体験が後押ししてくたのは事実です。

それと単純に農産物を販売するだけにとどまらなず、この場で楽しめる体験をつくることで、新しい収益源を作れたらと考えています。

ちょうど先日一度畑の体験ツアーをやってみたのですが、好評で。今後はピザ窯なども用意して、自分で取ってきた野菜をのせて一緒に食べるなども提案したいとワクワクしています。

多くの体験農園はアクセスが課題になるのですが、幸い自分の農園は海老名駅から徒歩15分ほど。既にその課題はクリアされています。しかも、ここらへんには地元の人が集えるようなコミュニティスペースがないんですよ。

駅前にららぽーとはありますが、コミュニティスペースという感じではないですよね。海老名は住みたい街ランキングでも上位の人気な街なので、人口は増え続けています。新しく入る方が多いからこそ、ご近所付き合いはそこまで盛んじゃなかったりします。だからこそふらっと集まれるコミュニティスペースがあったら良いなって思っているんです。ちょうど家の隣に空き地があって、小さくていいから直売所兼・軽くコーヒーも飲めるようなコミュニティスペースにしたいと思っています。

ハタケト:直売所兼コミュニティスペース!とても素敵です。

市川さん:「色々作っているみたいだけどどこで買えばいいの?」という声をいただくこともあります。自前の店がないから、そこはひとつ作りたいです。

「うちにはうちの強みがある。」兼業・小農園のコンプレックスを乗り越えて

ハタケト:市川さんの農園は色んな作物が小さいエリアの集積しているから、お客さんからしたら手軽に色んな体験ができて、楽しさも大きいと思います!

市川さん:正直今までは「家が兼業農家であること」にコンプレックスを持ち続けていました。農業界でいうと、専業でこそ本物といった見方はあると思っていて。でも家の農園は専業で稼ぐには、物理的に小さすぎる…。

でも最近は色んな方々と意見交換する中で、うちが小さい農園であることも、先代が思い思いに育ててきた果実の木があることも、周りはみんな畑を売ってしまっているようなエリアであることも、すべて考えようによっては強みに変えられると思えてきたんです。

やり方はいろいろあると思うので、これから得意な人と組んでいきながら市川農園らしいやり方を推し進めていけたらと思っています。

(インタビューはここまで)

人気の住みたい街の住宅街にある高アクセスと、弱みを強みに変える逆転の発想で農園だからこそできる形を模索していく市川さん。ご自身の畑を使った「農家と食べる人をつなぐ架け橋」事業に、今後注目です!

ライター/あべなるみ 編集/やなぎさわ まどか

INFORMATION

市川晋さん

市川晋さん

神奈川県海老名市にある市川農園の園主。27歳。
お米、富有柿を中心に旬の野菜・果実を生産している。