aiyueyoは、食や農業に関心をもち、仕事と暮らしをまるっと愛せるような生き方をしたい方々と手を取りあって歩んでいます。

「暮らしも仕事も抱きしめて」連載では、心地良い、仕事と暮らしのあり方やバランスを選びとってごきげんに生きている方たち(愛ワーカーさん)にお話を聞き、ご自身が理想として掲げている働き方・暮らし方の背景や、大切にしている価値観をご紹介します。

結婚や出産は人生の大きなターニングポイント。これまでの働き方や暮らし方を見つめ直すきっかけになった方も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、妊娠・出産の前後に移住、転職することを選び、大きな変化の最中にありながらも、自分の「やりたい」を仕事でも暮らしでも妥協しない道を模索している「きしかなさん」こと、きしかなこさんです。2021年2月に東京から山梨県へ移住、9ヶ月後の11月に第一子を出産。心惹かれて購入した築120年の古民家をリノベーションしながら暮らしています。現在は、古民家宿を運営している会社でのお仕事を主軸に、週末はaiyueyoを運営するTUMMY株式会社にて、想いの芽を育てるコミュニティ「ナエドコ」の運営メンバーとしても活動中。

初めての育児に日々追われながらも、「やりたい」を叶えるべく試行錯誤しているきしかなさんが働き方を見つめ直したのは、ご自身の「不育症」がきっかけでした。

スペシャリストに憧れて

── 移住のきっかけを教えてください。

きしかなさん:コロナ禍で夫婦2人ともリモートワークになり、これまで住んでいた東京の家が手狭に感じるようになったことがきっかけでした。当時は造園に関わる仕事をしていたこともあり、庭のある家に住みたいという願望がありました。移住先を山梨にしたのは、自然豊かで、友人知人が多く、実家にも帰りやすいという条件が揃っていたから。リモートワークが可能だったので、山梨に来てすぐの頃は、造園の会社で引き続き働いていました。

(現在お住まいの古民家の台所。お義母さまと一緒に料理をすることも。)

── 造園のお仕事をされていたのですね。

きしかなさん:小さいころから自然に囲まれて育ってきたので、緑を増やす仕事に魅力を感じて造園の世界へ進みました。もともと新卒で入ったのは物流の会社で、プロボノで携わっていた地域団体の活動で出会う人たちに建築家さんやデザイナーさんが多く、私自身が専門職への憧れもあって。挑戦するなら早い方がいいと20代後半のタイミングでガーデンデザインの専門学校へ入学を決めました。広く浅く取り組んでしまう自分にもやもやしていたので、専門分野への道はひとつの挑戦でもありましたね。そこで学んだことを活かして、造園の会社で働き始めました。

育休・産休を機に見つめなおした働き方

── 現在は古民家宿の運営会社で働かれているとのことでしたが、憧れでもあり、好きだった造園の仕事から離れたきっかけはなんだったのでしょうか。

きしかなさん:育休・産休期間中に自分の働き方を見つめ直したときに、地域に根ざした働き方にシフトしたいと思ったことがひとつのきっかけでした。自分自身も古民家に住んでいるので、いまの仕事から学ぶことがあったり、もともとの興味分野であった地域づくりにも関われたりして、忙しいながらも充実した日々を送っています。

それと実は、第一子妊娠前に流産を繰り返していたんです。そこで、検査をしたところ、赤ちゃんが育ちにくい「不育症」だと判明しました。造園の仕事は、身体がいちばんの資本。大好きな仕事だけど、働き続けるのが難しくなるかもしれないと思い、在宅でも仕事ができるような選択肢を広げようと決めました。これが、もうひとつのきっかけです。

働き方の選択肢を広げたいと思ったわたしは、女性向けキャリアスクール「SHElikes」を受講し始めました。色々学ぶうちに、「SHElikes」のブランディング講座の講師であり、TUMMYを運営するなるみさんのことを知り、なるみさんのTwitterをフォローしたんです。 

すると、Twitterで「ナエドコ」という言葉をよく見かけるようになって。「食」「農業」「暮らし」というキーワードを見て、どうやら自分と興味関心の近い人たちがいそうだなと思い、気になり始めました。ちょうど山梨に移住した時期でもあったので、自分自身の環境が畑や自然とより近くなったことにも背中を押されて、募集が始まるのを待っていました。

── きしかなさんが「ナエドコ」に参加されたのは、お子さんを妊娠中のときだったそうですね。

きしかなさん:「不育症」のこともあり、通常より早い段階で産休をいただいていて、時間がたっぷりあったんです。妊娠中ではあったものの、不安な気持ちより「この時間を使って何かしたい!」という気持ちのほうが圧倒的に大きく、2021年10月〜2022年1月にかけて開催された第1期に、心の声に導かれるように参加しました。

肩書きなんて必要ない、私は『きしかなこ』でいいんだ

── ナエドコに参加して、どのような変化がありましたか。

きしかなさん:畑との関わり方に対して抱えていたもやもやが晴れました。

移住したての頃、畑を借りたくて行政の方に相談しに行ったときに、「畑を借りるのであれば、まだ若いですし、”プロ農家”を目指してみてはいかがですか」と言われたことがあったんです。「畑=農家」でなくてはいけないの?と、もやもやした気持ちになりました。

ナエドコ参加当初も、このもやもやした気持ちを抱えていたのですが、同じく第1期に参加していた農家の青木秀太さんをはじめ、同期の仲間たちが畑でヨガのイベントをしたり、畑で大切な人たちに料理をふるまったりしているという話を聞くうちに、「畑は誰にでもひらかれているものなんだ、いろんな関わり方があっていいんだ」と心から思えるようになりました。

(畑で実ったピーマンをお子さんと一緒に収穫しているきしかなさん。)

それと、飽きっぽく、広く浅く取り組む自分にもやもやしたり、どこか肩書きに囚われている自分がいることに悶々としたりしていました。そんな気持ちを、ナエドコの運営をしている方に打ち明けたところ、「きしかなさんは、何者かになろうとするんじゃなくて、きしかなさんとしてあることを目指したらいいじゃん」という言葉をもらったんです。その言葉を聞いて、「肩書きなんて必要ない、私は『きしかなこ』でいいんだ」と気づいて、「わたしがわたしであること」が受容された感覚がありました。

今までの歩みを振り返り、ありのままの自分らしさに気づけたことで、揺るがない心の根っこが育まれたように思います。

── 新たな出会いが、大切な気づきにつながったんですね。

きしかなさん:ナエドコに参加するうちに「こんな素敵な人たちとの出会いの場に、これからも関わり続けたい!」という気持ちが大きくなっていきました。1期終了後に、代表のなるみさんに向けて、これからも関わり続けたい気持ちを込めたメッセージを送り、2期以降から運営に携わり始めました。

(「TUMMYのミーティングは子どもと一緒に参加してもOKなので、出産してからもアクティブに動いていたいと思っていたわたしにとって、理想的な働き方です」ときしかなさん。)

出会いの場を紡いでいく

── 運営メンバーとして関わる中で、どのような気づきがありましたか。

きしかなさん:自分自身も想いを言語化したり、フィードバックをもらったりする機会があり、今までコンプレックスを感じていた広く浅く取り組む部分も、見方を変えれば、好奇心が色んなところに向く、わたしらしい部分なんだと前向きに捉えられるようになりました。

ナエドコに関わることで、わたしらしさを周りの人たちからもらっている、いろんな人に出会うことが自分の価値感を深めてくれていると、回を重ねるごとに再認識しています。

ナエドコに参加する人の多くは、自分の暮らしや仕事になんらかのもやもやを抱えています。プログラム期間の3か月間で、暮らしや仕事を変化させないといけないの?と思う方もいるかもしれませんが、変化の有無や大小は関係ありません。周りから見たら、状態としては何も変わっていなかったとしても、暮らしや仕事を自分で選んでいる納得感をもった状態で前に進むことに大きな意味があると思うのです。

もやもやしていたことへの捉え方が変わったり、描いた理想に向けて新たな一歩を踏み出しはじめたり、続けるか悩んでいた今の仕事をもうしばらく頑張ってみようと決断したり……。内側からじわりと人生が動き出す出会いの場、ナエドコをつくることを、仲間とともに楽しんでいきたいと思います。

(インタビューはここまで)

思い切ってガーデンデザインの専門学校に入学することを選んだり、ナエドコにこれからも関わり続けたい思いを込めた熱いメッセージを送ったりと、心の声に素直に「えいやー!」と行動を重ねてきたきしかなさん。

想いを原動力に、自分の道を切り開いていく力強さとしなやかさを感じました。

最近入籍して、子育てのことをより現実的に考えはじめていたわたし。「仕事と暮らしと子育てと、これからどんな風に変化していくんだろう、どう組み立てていこう……」とちょっぴり不安な気持ちもありつつ、きしかなさんのように、妊娠・出産を経ても自分らしい働き方・暮らし方を探求しつづけたいという前向きな気持ちがぐっと強くなりました。

ライター/きた まゆか 編集/大原 光保子 撮影者/田村 理歩 

aiyueyoでは、​​​​「わたしらしい働き方・暮らし方」を仲間とともにじっくり深めるコーチング・ワークショッププログラム『ナエドコ』を開催しています。

やりたいことや夢を一緒に育む仲間と出会えるナエドコで、あなたの理想の働き方・暮らし方への一歩を踏み出してみませんか。

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INFORMATION

きし かなこ

きし かなこ

東京のにしがわ生まれ。コロナをきっかけに2021年に山梨へ家族で移住。 築100年以上の古民家をリノベしたり、畑をしたり、心地よい暮らし方を模索中。 造園設計・プランナー経験を経て、環境や地域の風土を守るお仕事をしていきたい人。 aiyueyo発のコミュニティ「ナエドコ」1期生。2023年2月からはじまるナエドコ5期では、リードを担当予定。