2020/05/27

「子どもがいるからやらない」じゃない。子どもがいるから、わたしは一生 自分がときめく仕事を続けます。【堀 琴江】

※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。

このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

就職したから。結婚したから。子どもが出来たから。
いつの間にか、むかし思い描いていた「夢」を諦めたり、忘れてしまってはいませんか?

今回お話をお伺いしたのは、大好きなワインをぶどうから自分で造ることを目指し、京都の天橋立ワイナリーで研修中の、堀琴江(ほりことえ)さん43歳。5歳と3歳、2人の娘さんがいながらも、自分の夢を実現させるために日々奮闘している姿に迫ります。

自分がときめく仕事をしたい。37歳でとうとう探し当てた夢。

ハタケト :早速ですが、どのような経緯でワイン造りを目指すようになったのですか?

琴江さん:結婚して少しした頃、夫の母親の里に住み兼業でお米を作る生活が始まりました。わたしもそれまでしていた仕事を退職し、夫が始めた鍼灸院の開業支援をしながら、畑仕事もするようになったんです。

夫は、環境に配慮した農業がしたくて米作りをしていました。私は何の疑いもなく手伝い始めたのですが、あまり面白くなかったので、自分から興味を持てて自分の心に触れる作物を探していました

たくさんの野菜を食べ調理方法を学び、野菜ソムリエの資格をとり、興味を持った作物があれば調べて、10年ぐらい色々と栽培してみました。

お米だけでなく豆やかぼちゃなど色々な作物を作ってみたのですが、全くときめかなくて。笑 栽培の作業は大好きなんです。でもやはり大変な仕事なので、自分が楽しめる好きな作物じゃないとしんどくなってしまうんです。

ハタケト :どういうことですか?

琴江さん:一時期わたしがメインで、京都の特産品である万願寺甘とうを作っていたんです。農協の指定銘柄で農協に出荷するので、わたし達がこだわって農薬を使わず愛情をかけても、他の大勢の人のものと混ぜられて「農協の万願寺甘とう」にしかならない。「堀さんの万願寺甘とう」にはならないんです。

(チャレンジしたものの1つ。リーフレタス)

ハタケト :そんなにたくさん試してもときめかなかったのに、ワインは他とどう違ったんですか?

琴江さん:ある日、丹波篠山にある素敵なご夫婦が経営しているフレンチレストランで食事をしたんです。いつも通りシェフが作る美味しいお料理とワインを楽しんだとき、一瞬で「わたしがときめく農産物はこれだー!!」と感じました。

(フレンチレストラン:丹波篠山のレストランボーシュマンさん)

「ああ、ワインと料理ってこんなにも合うのか。マリアージュってこれのことか。」
「これって農産物では?畑から採れるものですよね?」

すごく気持ちが高鳴ったのを覚えています。そう、ワインはぶどうなんです。自分が愛情をかけたぶどうが、かたちを変えて食卓に並び、お料理と合わせて感動できる。「堀さんのワイン」になれたらどんなに良いだろうと思いました。

37歳のときでした。少し遅いかもしれないけど、自分がときめく農産物を作りたい、それを一生の仕事にしたいと思ったのがワインでした。

「ワインを造る」という夢をとうとう探し当てたんです。

“好き”な仕事は社会の役に立ち、わたしを輝かせてくれる。

(自宅の庭で実験栽培するぶどうたち)

ハタケト :「一生の仕事をしたい」とは、どうして思うようになったのですか?

琴江さん:仕事は自分がこれっと思ったらずっと追求していけるものだから、自分がずっと輝いていけると思ったんです。

わたしの母も、今も自分の仕事を持って元気でバリバリ仕事をしてる影響もありますね。自分も死ぬまで働きたい。子どもたちには優しい子ではあってほしいですが、自立した女性になってほしいです。

あとは、この地に嫁いだから。限界集落に近い田舎なので抱えるものが大きいんですよね。田畑や家や山、全部ひっくるめて背負ってしまった。夫と出会ってから初めて農業に携わりましたが、嫁いで以来「農業、農業経営」というものにずっと負の感情をもっていました。

ハタケト :負の感情、ですか…?

琴江さん:この辺りでは田畑は負の遺産として煙たがられ、後継者もなく目に見える速度で耕作放棄地が増えていました。獣害もある、力仕事もある..でもそれ以上に、農業をしている本人たちが、農業の文句ばかり言っている。

鍼灸院との兼業を決めた夫にも、周りの人は「農業は簡単じゃない」「そんな片手間でできるわけがない」とマイナスな投げかけばかり。

その状況に勝手に「メラメラ〜っ!」とスイッチが入っちゃったんですね。わたしはこの福知山で、投げ出さずに農業をしたい。耕作放棄地になんてせずに綺麗な畑にしたい。

なおかつ自分が美味しいと心から思えるワインを造り、自分の仲間たちが集まってわたしが造ったワインを共に飲み、美味しい食事を食べて寝る。そんな生活良いなって。

(応援してくれる仲間とまだ何もない圃場でワイナリーを夢見てピクニック)

ハタケト :琴江さんは、地域のためにも“ときめく”ものを作りたいんですね。好きを仕事にする、それが地域の役にもたつ。とても素敵です!


子どもはブレーキ?否。出産によりむしろ爆発した行動力。

ハタケト :実際にワインを造ると決めてからは、どのように行動したのですか?

琴江さん:実は、ワインを造りたいと思ってから、すぐに行動できたわけではないんです。調べてみたりはするものの、ずるずると動けずにいました。そんな中、結婚してから子供がなかなか出来なかった私たちに、長女の妊娠が分かったんです。長女の出産は、全前置胎盤ということもあり本当に大変でした…。

出産の3か月前から病院で絶対安静、ドクターから「福知山で出産するなら死ぬかもしれない」と言われ京都市内の病院に転院。「やばい。死ぬ。」と思い無事に出産するまで本当に不安でした。

だからこそ、生きててよかった。「死んだら今持ってる夢はもちろん叶えられないし、何もできない。」と強く思うようになったんです。爆発的な行動力が生み出されたのは、出産の体験があってこそですね。

子どもが1歳をすぎたころ「今やらないといつやるんだ!」と思い、今までやっていなかったSNSを立ち上げ、女性経営者やインフルエンサーが主催するオンラインサロンに入り地方にいても学ぶ環境をつくりました。そして、丹波ワインさんに直接連絡をして週1,2くらいのペースで栽培の勉強をさせてもらったんです。

準備計画も立て、このままワイン用ぶどうで新規就農する勢いだったとき、2人目の妊娠発覚!

ハタケト:夢に向かって行動力が爆発している時に妊娠。葛藤もあったんじゃないかと思います。

琴江さん:いえ、次女を授かってよかったです!勢いで飛びこんで行動を起こすのも大事だけど、立ち止まって考えることも大事。農業に対して改めて自分の考えを見つめ直す時間になりました。

(娘たちと。)

ハタケト :夢を追いかける上で、お子さんはどのような存在ですか?

琴江さん:子どもは、「時間が無限じゃない」と言うことを分からせてくれる存在ですね。子どもがいるからこそ、今やってることをいい加減にできないと思います。子どもは自分の鏡。親と同じことをするので、自分のダメなところも分からせてくれるんです。子どもから見てかっこいい女性であり続けたいから「ここはやり遂げなきゃあかん」と踏ん張ることができます。

また、子どもは無理しすぎないペースを保たせてくれるバロメーターでもありますね。自分には自分のペースがあるように、子どもにも子どものペースがある。家族全員が健康でハッピーじゃないと仕事も楽しくできないので、焦りは良くない、と思っています。育児と仕事のスピード感のバランスは大事ですね。

夫とわたしはお互いに「最大の肯定者」であり人生のパートナー。

ハタケト :わたしはまだ子どもがいないので、子どもができると自分の夢は二の次になってしまいそうと思うのですが、琴江さんはどうして夢を持ち続けられたんですか?

琴江さん:わたしの場合は、自分の夢を語れる相手として夫がいたことが大きいと思います。夫は恋人夫婦というより人生のパートナーだと思っているので。どちらかにチャレンジしたいことがあったら、もう一方は後押しすると言う形で。

ハタケト :では、今旦那さんは全面的に応援してくれているのですか?

琴江さん:はい。「ワイン造りをしたい。」と言ったとき、周りは「そんなのできるわけない。」「難しいって聞くよ。」と言った反応でしたが、夫は全く反対しないどころか、「やってみたら。」と言ってくれました。

挑戦を始めてからも、わたし以上に「出来るよ!」と応援してくれています。落ち込んでいても、「絶対大丈夫!」と言ってくれるので、なんだか出来る気がする、大丈夫と思えるんです。

(庭先のぶどうの実験を始めたのも夫の後押しがあったから。)

夫が鍼灸院開業とお米作りを始めたとき、わたしが何も疑いも迷いもせず「絶対大丈夫!」と言いながら応援していたことで、今回応援してくれているのもあると思います。夫もわたしの夢を一緒に見たいと思ってくれているのかな、分かんないですけどね。

ハタケト :なんて素敵な夫婦関係なんでしょう…!最後に、大きな問いかけになってしまうのですが、琴江さんにとって夢とは何ですか?

琴江さん:なんだろう、今はそれしかないから、自分の人生じゃないですかね。長い業界の人には足元にも及ばないですが、やればで出来るんだという気持ちです。

知識はまだまだないし、ただただ行動力があるだけなわたしですが、夢を追う今は本当に楽しいです。

(インタビューここまで)

自分がときめく仕事を一生続ける。
興味があることはとことん調べてやってみる。
知ってしまった現状を変えるために自分の出来ることをする。

自分や家族と向き合いながらも懸命に夢に向かって走っている琴江さんからは、心から今が楽しいという笑顔と、仕事に対するひたむきな強い気持ちが伺えました。

琴江さんの今後の活動にぜひご注目ください!

ライター/あっつん 編集/やなぎさわ まどか

INFORMATION

堀 琴江 (ほりことえ)

堀 琴江 (ほりことえ)

Grapeleaf Vineyard園主。
ぶどうから大好きなワインを自分で作ることを目指して京都の天橋立ワイナリーでワイン用ブドウ栽培研修中。
5歳と3歳、2人の娘を育てる母でもある。