2023/02/18
食と職への願いを一緒に叶える。子育てママたちの生き方革命
小さな子どもと一緒でも、自分らしく仕事がしたい。子どもと暮らす合間にオンラインでaiyueyoの仕事をしているわたし・さえこですが、健やかに生きるためには暮らす地域と直接関わることが欠かせませんでした。夫の転勤先である徳島で、それを叶えてくれた大好きな場所の話をさせてください。
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背中でずっと泣いている娘と、落ち着いて弁当を詰められないわたし。「さえちゃん、今日はあがり〜!子どもは成長していくものやねん。大きくなったってことよ!」と仕事を始めて一時間足らずで帰してくれたのは、徳島にある子連れ出勤可のお弁当屋「はれいろキッチン」の店長あかねちゃん。
「子どもができると〇〇ちゃん/くんのママって呼ばれてばかりやろ?ここではみんな名前で呼びあおう」。お言葉に甘えて、尊敬しているけどあかねちゃんと呼ばせてもらっています。
帰り支度をしながら申し訳ないですというと、秒速で「違う違う!みんな同じ道を通っているんだから、『ありがとう』でやっていこうな〜!」と朗らかに返ってくる。スタッフが一人減る分、仕事が増えるはずなのに。
ベビーカーを押しながら歩く帰り道。迷惑をかけた罪悪感よりも、感謝の気持ちが大きいことに驚いた。今はありがたく甘えさせてもらおう。だけど、子どもが落ち着くころになったら次はわたしがゆらぎを快く受け入れる側にまわるんだと決意。
これは1年前、娘が1歳半になるころの話です。
ママの力は社会課題も解決できる
子どもが生まれると、それまでと同じようには働けない。家で子育てだけをしていると、どうしても社会からの疎外感を抱く。一方で、ママにはパートナーや子どもたちのことを考えながら家族の笑顔のためにマルチタスクをこなせる強さもある。「ママの力を社会に発揮できたら、ママも社会も両方ハッピーになるはず!」あかねちゃんは第三子を妊娠中に開業しました。
子どもを授かり育てることは、少しでも体に優しいものをと食事を見直すきっかけにもなります。はれいろキッチンではできるだけ地元で健康的に育った食材を仕入れるほか、あかねちゃんが家族と一緒に無農薬で育てた野菜とお米もたくさん使っています。時には、「食べきれないからぜひ使って」とスタッフやお客さんから食材をおすそ分けいただき、おいしいおかずに変身させて廃棄も減らしています。
最初は自分の家族が笑顔で暮らすために始めたそうですが、同じ思いをもつ友達の活躍の場も生み、子育てママの共感と地域の応援も集め、笑顔で生きる輪を広げています。
わたしはママだけど、ママだけではない
子連れで働くことって成り立つの?
約2年はれいろキッチンに関わった実感として、ばっちりできるよ!…とはいえません。ちょっと目を離したすきに椅子から滑り落ちていたり、袋をばらまかれたり、不機嫌で泣き止まない日があったり。それなりにドタバタするし、心も身体もフル稼働。
でも、ママたちがみんなで試行錯誤するとできる工夫はたくさんあって、嬉しい発見の方がたくさん心に刻まれています。
子どもが店でじっとしてられないから、配達メインで仕事をするママがいる。
「お金よりも嬉しいかも!」とお弁当報酬で託児やSNSのお手伝いをするママがいる。
子どもが泣いていたら「抱っこしようか」と手を伸ばしてくれるお客さんがいる。
子どもたちだって、お客さんに手を振ったり、チラシを折ったり、蓋に絵をかいたり、年齢によって色々なお手伝いをする。
そうか。持ちつ持たれつ、自分ができる形で大好きな場所を動かせばいいんだね。
子どもにとっても発見がたくさんあるはず。
ママはいつも遊んでくれるわけではない。ママはママの人生を歩んでいる。オーナーのじぃじ(店長の父)、一緒に働くスタッフ、お客さん、地域の人と関わりながら、ママが家では見れないような色んな表情をしている。生きるってこういうことかな。
ママ以外の顔を子どもに見せるの、絶対いいよね?
笑顔は笑顔を呼ぶ
「絶対」と言えるほど確信がもてるのは、店長のあかねちゃんが常に100%の笑顔だから。自分に付き合わせて子どもが可哀想、パパや家族に協力をお願いするのを申し訳ない、ついつい抱えてしまいそうな負の感情をあかねちゃんから一切感じたことがありません。
はれいろキッチンの活動は心から望んでいることであって、自分もみんなも幸せにすること。社会にとってもハッピー。迷いがない。「ありがとう」で突き抜けているから、「ありがとう」がたくさん集まります。
ハートフルなドラマにも出会ってきました。
とにかく、赤ちゃんがどんどん生まれる。
中には一人目の出産で辛い思いをして「2人目はとても考えたくない…」と思ってたけど、お店で子どもたちの様子をみるうちに考えが変わり、最近2児の母になったスタッフも。
突然、応援のメッセージとともに食材や活動資金をいただくこともある。
わたしは「いいじゃん、やってみなよ~!」の後押しで、路上演奏での店頭販売にチャレンジ。これが思いのほかお客さんを呼び寄せることに繋がった。楽器の音がいつも聞こえるから来てみたかったんだよね、とわたしがいないときに話題にでるほど近所の珍名物になってるらしい。大好きな楽器演奏で販売のお手伝いをする。新しいナリワイを発見してにやり。
見える世界が変わった
子どもを3人も4人も育てながら朗らかに働くママたちと仲良くさせてもらうなかで、子育てについて難しく考えなくなった。大丈夫、わたしが懸命に生きているのを娘はちゃんと見ている。自分ひとりで育てる必要なんてない。だって手を差し伸べている素敵な大人ってたくさんいるから。
それから、はれいろキッチンはわたしにとって、地域で自己開示をする一つの手札にもなっていた。スタッフの子どもを連れてお散歩にいったり、チラシを配ってお店の紹介をするなかで一歩深いコミュニケーションがとれた。
公園や児童館でよく遊ぶママさんは「おいしそう、今度行ってみようかな!どうやって仕事してるの?」と前のめりに話を聞いてくれたり、「遊びに来たよ〜」と言いながらお弁当を買いに来てくれる。キッチンに入るスタッフの子を預かってお散歩をしていると「いつも頑張っているわねぇ」「寒い日はうちに遊びにきてもいいわよ」と声をかけてくれるおばあちゃんもいる。
スマホやテレビをつけると心を痛めるニュースや人間不信になりそうな出来事が飛び込んでくる。物価の高騰は弁当屋にも影響が大きく、経営の課題は尽きない。だけど、わたしは日に日に人が好きになっていて、安心して生きられている。多分、暮らす地域に心が温かい人がたくさんいて助け合えるのを知ったからだと思う。
わたしはもう徳島を離れる。だから、次に暮らす地域でも絶対に温かい世界に出会いにいき、周りと分かち合うことをここに誓おう。
ライター/わだ さえこ