2020/09/21
自然のリスクを受け入れる。 そうしてはじめて広がる世界がある。 【君嶋きのこ園 君嶋治樹 みのり】
※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。
このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。
これまで自然の近くで共生する魅力を発信してきたハタケトですが、自然との共生においては、自然災害などのどうしようもない困難に直面する側面もあります。
今回お話をお伺いするのは栃木県で原木しいたけを栽培する君嶋きのこ園を経営する君嶋治樹、みのりご夫妻。
夫妻は現在多くのきのこが室内工場で栽培される中、屋内外問わず自然に沿った原木栽培にこだわり続けています。ですが、就農から2度の災害で、農園は大きな被害をうけてしまいます。
自然の脅威に直面しながら、それでも前を向きご自身のやり方を貫かれるお二人の心境に迫ります。それは、「自然」と共に生きるわたしたち全員のヒントに富んだ内容でした。
手間はかかるけど、一途な子。
ハタケト:ところで今、なんの作業をされているんですか。
みのりさん:原木を冷たいお水に浸しているんです。しっかり浸水させることでしいたけの発生を促し、その後ハウスに運び込み、しいたけが育つのを待ちます。
治樹さん:現在うちの園では10品種程度のしいたけを栽培しています。
しいたけ菌はご機嫌をとるのがとっても難しいんです。管理を少しでも怠ると、原木が害菌に一気に侵されてしまいます。でも手間をかければ一途に応えてくれる。世話のやきがいのある子たちです。
ハタケト:君嶋さんはなぜ原木しいたけ屋になられたのですか。
治樹さん:うちは子どもの頃から両親がきのこ屋をやっていて、わたしがきのこ栽培に関わるようになったのは24歳のときからです。ですので、わたしが原木栽培を選んだわけではないのですが、効率生産重視で行う菌床栽培に切り替えたいという気持ちは今のところはありません。菌床栽培は平成に入っていっきに広がった新しい栽培方法ですが、たしかに施設内の環境を管理してあげる方が、ビジネスとしてやりやすいのは事実ですね。
ハタケト:それなのになぜ、切り替えたい気持ちはないのでしょうか。
治樹さん:単純に、わたしが日にあたっていたいからです(笑)。工場栽培になると、施設内でもぎる、つめる、それだけ。インドアになっちゃうでしょ。色も白くなっちゃう。儲かったとしても自分はそれは嫌だなあと思っています。
二度の被災。1万本の原木が流される。
ハタケト:君嶋さん、昨年の豪雨で園が被災されたとお伺いしました。
みのりさん:はい。うちはこれが2度目の被災です。1回目は東日本大震災による原発事故のとき。そうして今回は昨年の台風19号での豪雨による川の決壊。うちにある原木のうち1万本以上の原木が流されました。悲しいかな、今回の地域一帯の被災ではなく、私たちの園がピンポイントで被災したんです。周りの人からすれば「何で道に木があるんだ!」という状態。「とにかく人様に迷惑をかけてはいけない」と必死の思いで流された原木を拾いました。ほぼ回収が済んだ頃には1ヶ月が経っていました。当時の保有原木は8万本ほどでしたが、もう栽培的に厳しいと判断した7割は処分することにしました。残りを全て1本1本洗浄し、現在の栽培に繋がっています。
ハタケト:なんと…。2度目の被災、一体どんなお気持ちだったのでしょうか。
治樹さん:1人でいる時間が長かったら、絶望して、辞めたいと思ったりしたかもしれません。ただそのときは、とにかく片付けに必死だったのと、友人や親戚、地域の方、のちにはNPOの方や大学生の方など、何十人もの仲間が手伝いにきてくれ、泥まみれになってボランティアをしてくれたので、落ち込む暇がなかったというのが実際のところでした。
”普段”が大事。
治樹さん:ただ、自然災害に対して「なめていた」ところはあったと思います。まさか自分がそうなるとは、と思っちゃってたんですね。でも2回目がきた。
ハタケト:いつどこで何が起こるか分からないと言われてはいるものの、なかなか災害を自分ごとで考えるのは自分も含め、難しいですよね。2回の被災を経て何か災害に対する緊張感や日常の態度は変わったりしましたか。
みのりさん:シンプルですが、いざというときに流されにくいように下にものをおかないとかは気を遣うようになりました。避けようがないとしても、なるべくもう1回はないようにしたい。だから、普段を大事にするようになりました。結局、普段をこつこつ丁寧に積み上げて行くしかない。調子がいいときも普段を怠らない。そこに小さくても大きな差が生まれると思っています。
治樹さん:まじめな人は辞めていると思うけど、わたしは依存型の楽天家なので(笑)。先のことを不安に思って過ごすより、できる限りのことはしつつ、それ以上のことは受け入れる。悲観しすぎず流れに身を任せる楽観性もあっていいのかなと思っています。
原木のポテンシャルを最大限活かしていく。
ハタケト:これから栽培はどのような方向に進んでいかれる予定なのでしょうか。
治樹さん:今までは生産規模拡大!をやはり志していたのですが、ちょうど2、3年前くらいから本当にそれでいいのかな?ともやもやする気持ちがあったんです。無理を感じてたんですね、時間的な余裕もない生活をしていたので。被災はその規模拡大の未練を捨てるいいきっかけになりました。これからは規模よりも原木栽培のポテンシャルを最大限活かす方向に進んでいこうと思っています。
ハタケト:原木栽培のポテンシャル、ですか?
治樹さん:しいたけの駒打ちやきのこ狩り、しいたけ栽培キットなどといった栽培体験などの展開を増やしていこうと考えています。
他にも面白かったのは、ボランティアにきてくれた方の中にはかぶとむしさんとか、虫が好きな方、自然や動物を大切にする活動をするNPOの方なども多く来ていただいたんです。その方々から、虫のブリーダーの間で産卵木の需要があるんだよ、ということを教えていただきました。しかもうちの原木が栽培方法的にもくわがたさんの産卵木として最適だ、というのが分かったんです。
今までは使い終わった木は薪にして循環はさせていたのですが、試しに産卵木として使い終わった原木を販売してみたら、わたしたちが想像していなかった価格で売れたんです。もともとうちにはたくさんのかぶとむしさんが住んでいて、虫のテーマパークなどに2000匹とか販売したりしたんですね。被災して甚大な損失を受けましたが、ボランティアできてくれた多業種の方との交流が新しい原木のポテンシャルに気づかせてくれたんです。
みのりさん:今ではうちのtwitterはしいたけのファンの方もいますが、虫好きの人にも多くフォローいただいているんですよ。虫垢の方々はお互いの虫を里子に出して産卵を助け合ったりするそうで、相互のコネクションがとても強いんです。うちの原木がそのコネクションの中で話題になっていたようで(笑)。震災のおかげで原木が虫が好きな方にとってわくわくする商材であることが見出されたんです。
ハタケト:すごい!転んでもただでは起きないんですね!!
治樹さん:ただでは起きんぞ!と奮い立っていたわけではなく、流れに身を任せていただけなんですけどね。ただ、これからも周りの人との繋がり、関わりを普段から大事にしながら流れを掴める人でいられればと思います。
(インタビューここまで)
君嶋さんはご自身のことを「楽天家」とおっしゃいましたが、これからきっと避けられない自然災害にわたしたにちも直面することでしょう。
起きてしまった災害に絶望し、投げ出すのではなく、起こってしまったことを受け入れながら、でもそこから学び、そして人と人との繋がりの中から新たな希望を掴み取る。
痛みを負いながらも、立ち止まらない。そのあり方は、とてもかっこよく映りました。
編集/やなぎさわ まどか