2021/08/04
「持続可能」とはなんだ?いのちに向き合い続けた農家が出したひとつの答え【畑の魅力伝道師 小池菜摘】
※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。
岐阜県中津川(なかつがわ)市の写真家百姓で、Koike lab.代表の小池菜摘(こいけ なつみ)です。畑の魅力伝道師の中では現在唯一の農家。畑に生かされている人間として、なにをお伝えできるかなぁ、なんてずっと考えながら、今日もいのちを愛でています。
ハタケト 、今。
日本の梅雨らしい梅雨が土が乾く間も無くしとしとと濡らしたかと思えば、入道雲の手前で微笑む太陽に焼かれる夏の、夕立に癒されるはずの日々が始まった。
我が家は芋農家で、出荷しているのはほとんどが土の下の野菜たち。雨が好きな子も嫌いな子もいるけれど、今年のゲリラ豪雨と呼んで齟齬のない雨たちはちょっと殺人的だ。
中津川はちょっとしたニュースになるくらいの雨が降って本当に毎週大雨警報が出る。川だらけなので洪水警報も出て、高い建物もないので雷が普通に落ちる。
配達の時間帯に被ってしまうと悲惨だ。やっとの思いで運び込んだ野菜たちが、パッケージが濡れていたり、それをきっかけに結露してしまったりして売れない。元気だけれど食べてもらえない子たちの気持ちやいかに。
我が家では今年はじゃがいもが長雨で収穫適期を逃してしまった。
去年長雨で全滅してしまったのにたくさん「欲しかった」ってお声をいただいたので、春に欲張ってたくさん植えたのだけれど、根付きが悪く、また雨・雨・雨で、肌の治安が悪い子ばかりだ。
おいしいけれど、見た目でお客様がしょんぼりしてしまうかもしれない。
掘り立てのじゃがいもは皮まで食べるものね。私はこの皮でも食べるし問題があるようには感じないけれど。
愛だけでは理解までたどり着くのは少々難しい。
何事も、欲張ってはいけないね、本当に。
2020年6月に始めた「恵那山麓野菜」という地域の農家の共同出荷チーム発足から1年が経った。
ハタケから続ける発信、のおはなしでも少し触れた、この地域が続いて欲しい!という叫びを行動に移したひとつの形。
補助金頼りの一時的なプロジェクトではなく、細く長く堅実に続く、地域ブランディングをひとり試みている。
この1年、恵那山麓野菜は、通信販売で遠くのお客様に買っていただいたり、地域の道の駅や観光ショップで販売していただいたりしていて、なんとかなんとかやれているところなんだけれど
2021年7月1日、ついに直営店ができた。
自分が売りたいように提案できる売り場ができた。
「こう、在りたい」が表現できる環境というのはとても大事なんだって、そんなことを改めて思ったので
お店をつくってみたら、確信に変わったことたちをお伝えしようと思う。
いのちを全うする場所
全いのちがひとしく、それを終わらせる日がある。
死は必ずくるし、基本的にそれがいつかなのかはわからない。
野菜のいのちは、人間が決める。人間が食べられなくなったら終わりだ。
本人たちにそんな気はなかったとしてもね。
それを自分のことと思えば、今日今からやることが決まってくる。
毎日そうやって手を動かし、深く思考し、仲間を伴って試行していくことが、仕事というものなんじゃないかとも思う。
現代人はとても忙しいし、特にハタケに関わる人たちはとてもとてもいそがしい。
実際に手を動かす時間が、すごく長いから。
なぜこんなにおいしい地域の野菜が、一同に介し、気軽に買える場所がないのか。
一般的な直売所の野菜はすごく安くて買うこちらが申し訳なくなってしまう。
ただでさえ安くないと売れないなんて言われて、農法もかける手間も違ういろんな野菜を一律に値段をつけさせて。そうやって並んでいる子たちから、販売側は15〜40%の手数料をとっているのだから、農家の手取りを計算するのすら怖い。それでも「市場価格より良いから」なんて、農家は藁にもすがる思いなのだ。
とはいえ、大抵直売所・地域のショップ、といいながら品揃えのために他府県産の野菜ばかり並んでいる。
そうして続いていく地域農業なんてわたしには思い描けない。
だから作りたかった。
本当にこの地域のものだけを、持続可能で合理的な価格で売っている、本物の直売所を。
置いてある野菜は最小限。人間が食べられなくなるタイミングを決めるのなら、ここに在るべき量には人間が責任を持たなくちゃいけない。
売り切ることができなくて人間の力不足であったのなら、その子たちは責任を持って最後まで食べられる形にしてあげなくちゃいけない。
トマトの袋の中の一つから汁が出たから。(だから何?早く食べたら良いんじゃないの?)
虫が袋に入っちゃって出てこないから。(だから何?ハタケにいるときは虫が何度も触ってるよ)
ヘタが枯れたから。(だから何?食べないところがどうなったからって問題ある?)
そんな子たちもぜーんぶ等しく廃棄される現実。
ふざけんな恵那山麓野菜はそうじゃないぞって言い続ける。
実際、月に10万円売上があるとしたら、廃棄している野菜は月500円分程度。
返品されてくる野菜は1-2万円分あるから、それを全部Koike lab.のもったいない工房で買って、クッキーやレトルトにしていく。
一袋丸ごと捨てることは1年で数回しかなかったし、本当に廃棄の少ない流通だと思う。
廃棄ゼロを目指して、やってみた結果を反映させていく毎日は、わたしのためのものではない。
「棄てたくない」が「儲けたい」よりも圧倒的に大きいまま、試行錯誤を続けていくことはきっと、人口減少時代の一つの考え方として、必要なはずだから。
持続可能でいのちに優しい営みを
・ギフトボックスを包む包装紙の意味は?さらにそれを段ボールに入れてギフトボックスを守ることに意味はある?
・プラ袋が最も低コストで鮮度維持に適している野菜、ばかりではないことを知っている?
野菜そのもののいのちを守ると同時に、この地球が、自然環境が持続可能でなければひとは生きていくことができない。
大したことはできないけれど、小さなことをたくさんやっていけばいつか塵は積もる。
日本の真ん中、そんなことを考えて日々を営む人間が、ちょっと割合として多い。そんな恵那山麓地域。
美しい水・光・土に育まれたハタケが広がる、この地の価値に出会えるあたらしいWEBサイトも8/1にオープン。
→ Aeru
わたしたちは奪わない。
あたらしく出会って、接してくれるみなさんの、心の中のこたえにそっと触れる。
そんな営みを続けていきたいと思う。
ライター/小池菜摘