2020/09/02
1gでも多くのいのちを救う!農家が営むもったいない工房のおはなし。【畑の魅力伝道師 小池菜摘】
※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。
岐阜県中津川(なかつがわ)市の写真家百姓で、Koike lab.代表の小池菜摘(こいけ なつみ)です。畑の魅力伝道師の中では現在唯一の農家。畑に生かされている人間として、なにをお伝えできるかなあなんてずっと考えながら、今日もいのちを愛でています。
ハタケト、今。
暑い!!!夏だ!!!
水浸しの7月がもう遠い昔に思えるぐらいには雨が降らない日々が続き、水が大好きで生き生きとしていた里芋もカラッカラ。
里芋が枯れるのをみたのは初めてのことで、水を撒こうかどうか悩んでいたところに
今度は雹混じりのゲリラ豪雨。
稲が倒れ、作業は中断し…もーなんなのー!
雹って当たると痛いんだな、本当に。ということだってやっぱり初めて知ったのだ。
「農業は毎年1年生」師匠の言葉が胸に刺さる。
6-7月に思うように雑草をやっつけられなかったツケが今来ていて、ひたすら手で草をとり、草刈機をぶん回し、そうこうしているうちに立秋をすぎた。
例年なら今頃はさつまいもの出荷が始まって、芋農家の本気が試されはじめる頃なのだけれど
長雨の影響か。日照不足か。おいもさんたちはまだ小さい。
思いもよらずできたスケジュールの空白をありがたく楽しむ、ことはできないまま今日も加工仕事に勤しんでいる。
2020年は天候不順だ。
おそらく芋の生育はこのままずっと遅れたりイマイチだったりすることがほぼ決定しているようなものなのだ。
わたしたちが芋農家であることと、「もったいない工房」を運営していることの両輪が、同時に回り始める。そんな音がする。
もったいない工房のはじまり
2014年に中津川に移住(夫はUターン)してきたわたしたちは、87歳の現役農家であった義祖父が営む農業を手伝っていた。
関わりながら、勉強しながら、その間に接する”廃棄”の多さに驚く日々。
義祖父母はほとんど自分たちの育てた野菜の出荷できない部分を食べて暮らしていたけれど、それでも食べきれない子が出てきてしまう。ものすごくたいせつに育てた子たちを、戦争を経験した世代であることも相まって、粗末にするようなことは決してなかった。
それでも、棄てなくてはならないということがあることを知った。
小さい時からそれをみてきた夫はその中でもとりわけ「まだ食べられるのに」と言う部分について無意識的に違和感を感じていたらしい。
Uターンの際には地域で一番大きい菓子屋に就職を決め、
勤めながら、製造技術はもちろん食品衛生管理や、そのもっと根本である「野菜を加工すること」について学んでいた。
製菓衛生師という国家資格は取得するのに2年の実務経験が必要だ。
勤めて2年がすぎた頃、会社でその資格を取らせていただいた。
そして、製菓衛生師となった夫は日々の農業と廃棄の問題について、一つの答えを見つけることになる。
「まずは、うちの子たちを棄てなくてもいい方法がわかったかもしれない」
いのちをたいせつにする、決意。
その頃、Koike lab.はわたしの個人事業として写真を生業にする傍で、義祖父と夫が力をあわせてそだてた農産物の販売を家業として営んでいた。
わたしの写真はいのちそのものを捉えることに注力していて、それはヒトという生物だけに依らず、中津川の自然に育てられたわたしの感性がいのちあるもの全てに対して愛を感じ、行動をはじめていた頃だった。
我が家で育つおいもさんたちに愛を感じ、いのちを感じ、声も聞こえ始めたタイミングで、夫がそんなことを言い出すものだから、二つ返事で事業として引き受けた。
1gでも多くのいのちを救うのだ。
それはできるだけ短絡的で簡単なものではなくて、農家だからこそわかる食べ頃のとてつもなく美味しい子の味を、全力で生かしためちゃくちゃ美味しいものに変えて、お客様に食べてもらうのだ。
2018年7月25日。
晴れて菓子製造業と惣菜製造業の営業許可を得たちいさなちいさな加工場が誕生した。
出荷できない規格外や、返品されてきたけれどまだ食べられる子たちなど、
いのちのある野菜を救うことだけを目的にした、農家が営むからこそ価値のある場所。
もったいない工房の一番人気は「芋農家のつくるスイートポテト」
様々な配合を試し、当時2歳のムスメの食べが一番よかったレシピを採用した。
スイートポテトを初め、もったいない工房はとにかく「1gでも多くのいのちを救うこと」を目的としているので、野菜たちは主原料(原材料表示で一番最初にくる)になるレシピを基本にする。
要するにめいっぱい入れれるだけ、いれる。
結果的に「芋農家のつくるスイートポテト」は8割以上がさつまいもでできている。
さつまいもの品種が違うだけで、配合は全て同じなので、純粋なさつまいもの食べ比べができる。さらに、農家的な推しポイントは時期によって全然味が違うということ。
野菜の味は時期によって変わるものなのだ。特にさつまいもは顕著で、それを体感できる加工品というのは、わたしの知る限りない。
ずっと同じ味がする安心感も大切だけれど、野菜そのものを感じるには味の変化があることもやっぱり大切なことだと思う。
野菜を、いのちを、生かすということ。
そのためには食べられる形に加工するわたしたちと、食べてくださるお客様がいなければ成り立たない。
毎日お客様から寄せられるうちの子たちへの愛を噛み締めながら、手を動かす。
もったいない工房のこれから
3年目を迎えるこの秋から、新しいチャレンジをはじめる。
元々菓子製造業に加えて”惣菜製造業”の営業許可も持っていたわたしたちだけど、実際は販売する場所に冷蔵庫がないといけなかったり、配送ができなかったり、お客様のお手元に届けるのにたくさんの壁があった。
惣菜製造業があればどんないのちも救えるぜ〜と思っていたのに、売る方法がなかった。お菓子にできる野菜は限られていて、努力はしたけれどやっぱり難しかった。盲点だった。
そこでレトルト釜の登場だ!!!
レトルト釜は、専用の袋に入れて真空パウチにしたお惣菜を、120℃の高温で30分間程度加圧加熱することで殺菌する機械。
こうすることで、パウチの中の菌をやっつけて無菌状態にすることで、保存料を使わずに長期間の保存や常温での取扱ができる。
カレーやスープにすればきっとどんな野菜だって食べてもらうことができる。
わたしたちが目指していた「もったいない工房」の一つの完成形。
人生最大の買い物も、野菜を救えるなら痛くも痒くもないんだなあ。
「こんなにも野菜のいのちに魅せられていたなんてね。」と夫と笑いあいながら
今日も確実に存在するフードロスの撲滅を目指して、一歩一歩、急ぐ。
ライター/小池菜摘