2022/12/06
“安定”より”自分らしさ”を。葛藤を乗り越え、歌い手として輝きを増し続ける秘訣は土と子どもたち。
aiyueyoは、食や農業に関心をもち、仕事と暮らしをまるっと愛せるような生き方をしたい方々と手を取りあって歩んでいます。
「暮らしも仕事も抱きしめて」連載では、心地良い、仕事と暮らしのあり方やバランスを選びとってごきげんに生きている方たち(愛ワーカーさん)にお話を聞き、ご自身が理想として掲げている働き方・暮らし方の背景や、大切にしている価値観をご紹介します。
今回ご紹介するのは、茨城県石岡市八郷にお住いのシンガーソングライター「うたうたい りりぃ」さんです。旦那さんは「看板屋たけちゃん」として活動しているクリエイター夫婦でもあり、たけちゃんが作ったアトリエ兼りりぃ農園を拠点に様々な活動をしています。
葛藤しながらも「自分らしさ」を大切に活動されてきたりりぃさんのこれまでの歩みを伺いました。
夢を叶えた夫婦の拠点。笑顔が集まる生きるための拠り所
── とても素敵な空間ですね。ここはどういった場所なのでしょう?
りりぃさん:元々ゴミだらけで誰も使っていないライスセンターだった場所を、たけちゃんが廃材や地域の方からいただいたものなどを使って命を吹き込み、アトリエに作り替えてくれました。水・電気・ガスなどが止まっても大丈夫だと思える場所を作りたかったのと、子どもたちが思いっきり遊べるような場を作りたいと、夫婦でずっと話していたんです。3年くらい探してようやくここに巡り会い、2019年から改装し始めて、まだまだ変わり続けています。横にあるりりぃ農園では季節の野菜を育てており、薪も常備していてかまども完成し、着々と構想は進んでいます。
普段はたけちゃんと私のアトリエとして使っているのと、主に「草っぽ学校」の会場となっています。先日丁度「火の力を感じる」というテーマで「草っぽ学校」を開催しました。
草っぽ学校とは、近くで自然農をされている草っぽ農園さんと一緒に開催している、子ども達のための遊び場です。コロナウイルスが流行して子どもたちの遊び場が本当になくなってしまったと感じていて、子ども達には土や菌と触れ合いながら育っていって欲しい。とにかく人や土や自然に触れ合いながら遊べる場として、ご飯を作って食べたり、田んぼでサッカーをしたり、キャンプをしたり、2020年ごろから月1程度開催しています。
わたしにとってはライブで忙しくても参加したい大切な場所です。人間はやっぱり土に触れたり、遊んだりする経験は大事なものなんだと感じてます。大人も子どもも、参加するうちにどんどん心を開いて笑い合う姿を目の当たりにして、変化する姿に感動しますね。
── パートナーである看板屋たけちゃんにとって、草っぽ学校はどんな場所なんですか?
たけちゃん:自分がやりたかったのはまさにこれ!と思えるくらい、草っぽ学校はもう本当に最高の時間で、楽しくて天国みたい。子ども達が大好きで、このアトリエを作る時も子ども達の笑顔を思い浮かべながら作ったんです。自分がうつ病になった時、人間はこんなにも可能性があるのに、なぜ自分自身で可能性を閉じてしまっているのだろうと違和感があった。だから個々人の可能性を伸ばせる場所を作りたかった。最初は顔が曇っていた子どもたちが、色んなことにチャレンジしながら笑顔で輝いていく姿を見ることは、本当に幸せ!
仕事を辞めて音楽の道へ。不安ながらも決めた覚悟
── りりぃさんの現在の活動を教えてください。
りりぃさん:基本はシンガーソングライターとしての活動がメインです。様々なライブやマルシェ・クラフト市でのキーボード・ギターでの弾き語り、幼稚園・保育園での絵本と歌を融合させた絵本ライブ、小学校などで歌わせていただいたり、CMソングを歌ったり、このアトリエを使ってライブやイベントを自主企画することもあります。昨年末にアルバム「めざめの唄」をリリースして、今年は地方ツアー種まきツアーを決行。あとはりりぃ農園で不定期の草っぽ学校を開催したりしています。
── うたうたいりりぃとしての活動はどのように始められたのですか?
りりぃさん:元々わたしにとっては学生の頃から自分の中の「居場所」が歌だったんですよね。パニック障害のような症状があったこともあり、自分の居場所がどこにもなくて苦しかったのに、歌の中にいると自分が救われるような感覚があったんです。 それくらいわたしにとっては歌が大切な居場所で、自分の心の傷も歌にすることで癒されてきました。
本格的に音楽を始めたのは19歳くらい。本当は音楽の専門学校に行きたかったのですが、母から看護師や介護士など安定した職業を選んだ方が幸せだと言われその道は諦めました。福祉系の専門学校に進学し、福祉を学びながら友人と路上ライブを開催。卒業後も福祉関係の仕事をしながら10年以上音楽を続けていました。自分の行きたい道を歩めなかった後悔が残り、何としてもいつかは音楽で生きると心に決めていたんです。
── 仕事をやめて音楽の道一本に絞るのは簡単ではないと思うのですが、怖くなかったですか?
りりぃさん:とても怖かったですね。シンガーソングライターって、とにかく自分が動かなかったら何も収入がなくなってしまう。更に音楽ってボランティアでも成立してしまう対価がつけにくいものなので、最初は本当に大変でした。とにかく色んなイベントに出演して知ってもらい、少しづつ金額を提示できるようになっていきました。お金のことを持ち出したらもう呼ばれなくなるのではないかと、すごく不安で怖くて、色んな気持ちでいっぱいでした。でも、そんな不安の中でも音楽一本で生きる決心が出来たのはたけちゃんのおかげなんです。
りりぃさん:たけちゃんとはクラフトイベントがきっかけで出会い、結婚しました。仕事を辞めた後アルバイトと音楽を両立していたのですが、アルバイトに行くのが辛くなってしまったんです。そんな時たけちゃんが、「楽しくて疲れているなら良いけれど、命は限られているから、アルバイトで時間を消費しているのは勿体無い。アルバイトの時間を音楽に注いだらどう?」と言ってくれたんです。
おかげでやっと決心することができアルバイトを辞め、CD「太陽のおへそ」を作成。それをもとに宣伝活動をしながら地道に活動を続け、4年たった今ようやく音楽が楽しくなってきました。まだまだ葛藤もあり試行錯誤の中ですが、なんとか音楽で生活できています。
回り道をしたけれど、全てが今に繋がっている
── 大学や卒業後のお仕事はなぜ福祉系を選ばれたのですか?
りりぃさん:祖母が介護をしていたことや、叔父が知的障害を持っていることがきっかけですね。叔父はすごく明るくてピュアで、会う度に元気をもらっていました。普段の私は新しく出会った人と中々打ち解けられないのに、ハンディキャップがある方々とは、なぜか言葉を交わさなくても心が通じたり、素の自分でいられるという感覚があって。もちろん大変なこともたくさんありますが、今も歌を歌うことと、ハンディキャップがある方々と接することには似たものを感じていて、自分が自分らしくいられる場だと思えるんですよね。
福祉事業所のテーマソング作成や弾き語りなど、現在の活動を通して関わらせてもらうことが増えてきて、とても嬉しいです。
また、子供達やハンディキャップを持った方ってとても素直で、嫌な時は嫌って言える。だからライブをさせてもらうとすごく勉強になるんです。どういう風に楽しませたら飽きずに見てくれるかなとか、悔しい思いをたくさんしながら試行錯誤して今の形があるのですが、本当に楽しいです!
── 保育園や幼稚園でのライブは珍しいと思うのですがどのように始まったのでしょう?
りりぃさん:もともと即興で歌を作ったり、絵本をその場で歌ったりするのが好きだったんです。明るい曲が多かったのでお客さんも親子で観てくれる方が多く、保育園に通っている親御さんが保育園でライブをして欲しいと声をかけてくれたことがきっかけです。
その後東京で繋がりのある絵本屋さんのステージに立たせてもらい、それがきっかけで2019年にサマーソニックで絵本ライブをさせていただくという転機が訪れました。継続しているとこんな転機もあるのだなとびっくりしています。地道にコツコツと目の前のライブを一生懸命やるうちにご縁が繋がってき、改めて続けることの大切さを感じています。
土に触れることで出会えた自分らしさ
── 自然豊かな場所に移住しりりぃ農園をはじめて、何か変化はありましたか?
りりぃさん:このまま世の中どうなってしまうのだろうという危機感とともに、草っぽ学校と同じく2020年にりりぃ農園をつくり畑をはじめました。土に触れることで自分自身の不自然さにも気付き、人としての自然な姿を思い出した感覚があります。畑には様々な草が生えたりたくさん虫がいたりと色んな命があって、それでも全てがバランスよく成り立っているんです。自然の循環を見て、なんだか感動したし、励みになりました。
また、歌うことは大好きだしとても楽しいけれど、葛藤もたくさんあり、どこかですごく自分を疲弊させてしまうことも…。音楽って常に日常と繋がっているので、オンとオフを切り替えるのが難しいんです。けれど土に触れる時間や草っぽ学校の時間は、何も考えずにただただ楽しめる、ありのままの自分の居場所になっています。
今年はライブが忙しくりりぃ農園がほどんど手付かずなので、最近のテーマは「いかに土から遠ざからずにいられるか」。音楽へのインスピレーションが湧き、さらに心と暮らしのバランスが取れ気づきの時間になるので、土に触れる時間も大事にしたいです。
── 音楽活動にも変化はありましたか?
りりぃさん:実際に自分が表現する音楽も変わりました。以前は老若男女楽しめる「みそしるの唄」のような明るい音楽をつくっていましたが、土に触れてからまた違う自分が出てきたんです。人の笑顔を見ることが好きだから、みんなで楽しみたい気持ちが強かったんです。でもこの混沌とした世の中で生きにくさを抱えている人たちがたくさんいて、その現代の生きにくさに対して疲弊してしまっている人の心に音で寄り添えたらいいなあと思いつつ、歌で種まきができたらと思っています。
昨年の「めざめの唄」と2017年の「太陽のおへそ」のアルバムでは、音楽性がかなり違うので皆さんにびっくりされました。それでも今は自分自身の転換期でもあるから、自分が思うものを表現しようと決心し、最近はバラードだけを歌う大人向けのライブも増やしています。
── わたしも先日ライブに伺わせていただき、明るい曲とバラードのりりぃさんの表現の振れ幅に驚きました。
りりぃさん:明るい歌を歌うイメージの自分自身に葛藤もあったんです。明るい人だと観られることも嫌だったし、「わたし」というイメージが固定される事もとても嫌だったのですが、思うままに両方表現しても良いのだと最近やっと納得できました。その場の雰囲気に合わせて歌う楽しい場も大好きだし、でもバラードで伝えたいこともある。音楽性はこれからも変化していくものだと思っているので、その時に歌いたい唄をと思っています。
2020年からの生活の変化の中でより歌が自分の居場所だと感じ、歌うことが自分の中の祈りのような感覚になることがあるんです。ただただ歌う感覚。何が正解か分からない世界で、意味なんてあるようでないものでもあると思うし、誰かが望むものではなく、もがきながらも自分から湧き出る感覚を大切に、音で表現していきたいです。
(インタビューはここまで)
音楽の道で生きていくと決め、自分らしくその道を歩んでいるりりぃさん。一見自分とは違う世界のアーティストに見えるりりぃさんですが、わたしたちと同じように、葛藤しながら周りに背中を押されながら、一歩一歩大事に歩んで今があるのだなと感じました。
また、自然や土や子供たちなど、自分の好きなものに触れて心を解放し、その心の声にきちんと耳を傾けてあげることで、りりぃさんらしさが生まれ、音楽にも表現されていくのだと感動しました。わたしも自分の心の声を聞くことを忘れずにいたいです。
ライター/あっつん 編集/大原光保子 撮影者/川村碧