2020/05/05
愛のままに、わたしらしく働こう。 野菜オタクが始めた1代目 女八百屋 【べじくるむ 寺田賀代后】
このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。
今回お話をお聞きするのは大阪府松原市にて「べじくるむ」という八百屋を経営する寺田賀代后(てらだ・かよこ)さんです。「野菜が愛おしい!」とキラキラした笑顔で話してくれたかよこさんは、飲食店への野菜卸をベースにギフト用の野菜セット「べじふるギフト」を販売したり、「やさい劇場」という名前の実店舗したりと、ユニークな写真野菜の提案を行なっています。
シングルマザーで1児の母でもあるかよこさん。子育てをしながらなぜ八百屋をされているのでしょうか。
21歳、野菜を志す。
ハタケト:女性で八百屋をされる、というのは珍しく感じます。
かよこさん:わたしは大阪の街育ち。農家の娘でもなければ、家が八百屋をやっていたわけでもありません。でも「自営で野菜をやる」ということは21歳の時に決めていました。
ハタケト:21歳で!どういった経緯でその夢は決まったのでしょう?
かよこさん:わたしは一人っ子だったので、親や祖父母から「かわいい、かわいい」と言われて育ちました。素直だったので、本当に「わたしはかわいいんだ」と思っていました。だからこそ、だんだん鏡に映る「そんなにかわいくないわたし」を受け入れられなくて。高校3年生で、親にエステサロンに行くお金を頼み込むほど、幼い頃から美容への執着は高まっていました。
19歳のとき、通っていた専門学校の学園祭でステージに上がることが決まったんです。そこで、落ち着いていた美容欲が再発して。「こんなんじゃあかん!いろんな美容法をやり尽くしてきたから、ここから先は、内側からきれいになるしかない!」と、野菜中心の食事を始めたんです。まかない目的で、自家栽培ファームが直営するレストランでバイトも始めました。そこで、出会ってしまったんですね。
ハタケト:何に出会ってしまったんですか?
かよこさん:かわいい野菜たちにです!当時はまだ西洋野菜が珍しかったので、バターナッツやロマネスコをはじめて見て、その可愛さに恋しちゃったんです。その時「多分わたしは自営でがっつり野菜のことをやるな」と思ったんです。
自分がやりたいことをやるなら自分で組織から作るしかない
ハタケト:なぜ「自営で」と思ったんですか。
かよこさん:わたしは何か組織に入ると、イエスマンで頑張っちゃうタイプなのですが、何か違うな?と思うと、冷めるのも早くて。社会に出てからもめっちゃ転職しました。だから、自分でやりたいと思うようなことは、自分で組織を作ってやるしかないと思っていたんです。
ハタケト:めっちゃ転職した、ということは、夢を描いてすぐ八百屋を始めたわけではないのですか。
かよこさん:そうです。八百屋を始めたのは26歳のとき、夢を描いてから5年後ですね。まずは学校で学んだスキルを活かし、ホテルで照明の仕事につきました。計画を実行するにも、お金は必要だったので。ただそこは1年も経たずに辞めて、次は広告代理店の営業、エレベーターガール、営業事務の仕事などもしましたね。資金がある程度溜まってからは、プロとして野菜の知識や情報は必要だと考え、さらに色んなところに転職しました。飲食店、ドライフルーツの販売、そして野菜の仲卸2社で働きました。農家さんのところでボラバイトを利用して働いたこともありますよ。
きっかけは思いがけない形でやってきた
ハタケト:ではしっかりと準備した上で念願の独立をしたわけですね。
かよこさん:それが、「念願」という形ではなかったです。最後の勤務先では、同僚とお付き合いをしていたのですが、その彼との間に子どもを授かったんです。しかし、出産まであと3ヶ月というある日、彼が突然仕事を辞めてしまいました。起業しようとしていたのですが、準備不足ですぐ職がなくなってしまって。でも、プライドが高い人だったので「仕事をください」と頭を下げることもできなくて。
それなら、わたしは八百屋をやると決めていたので、先に事業を進めてもらうと思いました。ただ、始めた当初は軒先を借りて野菜を売らせてもらっていましたが、たいした売上もありませんでした。そのわずかな売上を、彼は全額使ってしまったり、違和感に感じる行動が目立ち、彼とぶつかることも多くなりました。日々押し問答しながら、わたしも働かないと回らなくて、結局、出産の2日前まで配達をしていましたね。なんなら分娩室に入ってからも彼に電話で怒鳴られて。「まじかー、こんな人やったんか」と思いながら出産しました。
子どもを産んでからは、準備してきたお金を減らしながら生活していました。子どもが4ヶ月になったとき、彼の「仕事が決まった」という話や身の上話が全部嘘だった、という出来事が起こり。ここまで信じてやってきたけれど、さすがに耐えられなくなり、彼とさようならすることを決めました。
借りていたマンションはわたしの契約だったので、両親の力も借りて、もう片付けも掃除もしなくていいから、身1つで出て行ってください、と彼に伝え、彼は「分かりました。」と言ってくれました。しかし、鍵を受け取る約束をしたその日、マンションに行ったら彼は自殺をしてました。
物件は事故物件になったので、わたしに100万円近い損害賠償がきました。そのときには準備していたお金もすべて使い果たされていたので、お金も、精神的にもどん底のスタートとなりました。
彼に関する悩みはSNSで発信していなかったので、周りは幸せな結婚生活を送っていると思っていたと思います。ただ、ここまでくると思いが爆発してFacebookに「こんなことがあって、でもわたしは絶対に子どもを幸せにします。最初は夜の仕事とかもするかもしれないけど、頑張ります」と書き込んだんです。そうしたら、今でもお世話になっている方が「夜の仕事は絶対にしたらあかん!野菜で食っていけ!」と言ってくれて。その方が飲食店に掛け合ってくれ、いっきに野菜の仕事が増えたんです。皮肉ですけど、それで初動を掴むことができました。
ハタケト:これまで周到に準備されてきたのに、予想外のスタートとなったのですね…。
かよこさん:はい。ただ、わたしは慎重派だったので、もしかするとこのきっかけがなければもう2、3年始められずにいたかもしれません。そう思うと、子どもと野菜の会社と、2つの宝がいっきに手に入ったので、幸せなことだったと今は思います。
仕事と恋愛は一緒。愛なしでは成立しない。
ハタケト:そうして生まれた「べじくるむ」という八百屋はどんなお店なのでしょう。
かよこさん:わたしの熱意と、おせっかい、それともったいない精神、人との絆をすべて編み込んだようなお店ですね。わたしの熱意や人を巻き込む力が発動するのは、「この人が作ったものを売りたい!」とか「こんな素敵なものが世の中に出ていないなんておかしい!」という気持ちになったとき。だから、「応援したい人のためにときめく野菜をつなげる」というべじくるむのやり方はわたしそのものなんです。
べじくるむの中でもキーパーソン的な存在になっているのが「べじふるギフト」です。なんとか可愛い野菜たちの価値をあげられないかと考えていたのでとき、お世話になっている飲食店へのお祝いに、野菜をギフトボックスに詰めて贈ってみたんです。これが、もうこれまでにないくらい喜ばれて、商品化することにしました。ギフトボックスに入った野菜たちは「どや顔野菜」と呼んでいます。誇らしげで、キラキラした顔をするんです!
ハタケト:かよこさんにとって野菜は、どんな存在なのでしょう?
かよこさん:魅力的な人!普段から擬人化して野菜をみています。このトマトはべっぴんさんやなとか、このキャベツは脈フェチにはたまらない男前やなとか。(笑)
わたしは自分をお父さん、お母さんからかわいい娘を預かってつなげる婚活アドバイザーみたいな存在だと感じています。マッチングした飲食店さんが「おいしかったわー」と言ってくれるのが一番の喜び。「でしょ?」って自慢げな気持ちになります。
ハタケト:どうしてそんなに野菜を好きになったのですか。
かよこさん:理由なんてありません!よく聞かれるんですけど、仕事と恋愛をイコールと思ってもらえれば伝わると思うのですが、恋愛で誰か好きになったとき、好きになった理由ってよく分からないじゃないですか。それと一緒です。
わたしは仕事と恋愛は一緒だと思っています。どちらも、愛がないと成立しない。人が合わないと関係を切ることもあります。人重視です。でも、それって恋愛だと思えば当たり前のことですよね?
人生の1/3をしめる仕事だから、楽しまないと!
ハタケト:これからさらにやりたいことはありますか。
かよこさん:八百屋ではありますが、女性が自立するための応援はしていきたいと思っています。わたしの友人に、After5だけが楽しみという人がいるのですが、それってBefore5の仕事は楽しくないってことですよね。1日の1/3をつまらないと思って過ごすの、勿体無いと思うんです。
女性は男性にはない武器として「かわいい」とか「美しい」と感じる発想力を持っています。あるいは生理による不安定さも、魅力だと思うんです。いろけとして出していけばいいと思う!
ハタケト:女性が働く上で、子育てとどう折り合いをつけるかは大きな課題になると感じています。かよこさんはどうやっているんですか。
かよこさん:折り合いなんてつけていません。がっちゃんこです!子どもと一緒に畑にも行きますし、配送もします。
今のわたしの暮らしに母親の存在は欠かせませんが、母とわたしの関係は、家を守る嫁と外で稼ぐ夫のようになっています。(笑)自分に合った、家族の形でいいんです。
わたしの話は、一般的な「お金をたくさん稼いで成功している人」の話とはかけ離れていると思います。でも、「人生を楽しみ尽くす人」の話ではあります。
女性にしかない提案は絶対にできます。出産に耐えられるほど、女性は強くできています。屈する必要なんて、ないんです。
(インタビューここまで)
もともとは美容に執着していたかよこさん。すっかりそれはなくなったとおっしゃっていましたが、愛する野菜のこと、仕事のこと、終始笑顔で話してくれたその姿は「美しい」と感じざるを得ませんでした。