2023/11/20

どんなに急いでも地球の巡りは同じ。自分を取り戻す時間を畑で生み出す”現代のお百姓さん”

aiyueyoは人にも地球にもやさしい暮らしを叶えたい企業や団体と手を取り合っています。本連載では日常の小さなエコアクションを応援するコミュニティ「暮らしの目からウロコ」と一緒に地球にやさしい暮らしを楽しむヒントをお届けしていきます。

今回は環境・社会・地域のことを考えて行動する人=ウロコ人の活動から、地球にやさしい暮らしのヒントを一緒に考えましょう。

わたしたちは日々、仕事や家事、子育てなど忙しい日々を過ごしています。
そんな中、兵庫県・神戸市で畑を使った子育てひろばや暮らしのワークショップで「私は自然の一部」と感じられる場づくりをしているのが、農と暮らしのワークショップのらふぁーむ・山中貴代美さん(愛称:のらさん)です。

限りある時間の中で、効率的に動くことを求められ、いつでも誰とでもつながれる時代の中で、ちょっと立ち止まって土や緑を感じてみる。そんな時間を作りたくなるお話をお聞きしました。

仕事に子育て。忙しい自分がホッとできる場所が畑だった

私たち暮らしの目からウロコに

── 現在の活動内容について教えてください。

山中貴代美さん(以下:のらさん):味噌、みつろうラップを作るワークショップや畑を中心とした子育てひろばを開いています。また、保健師として新生児訪問指導や子育てサークルへの出張育児相談などのお仕事をしています。目指しているのは「現代のお百姓さん」。色んなスキルを持ち、自分の暮らしも大事にしながら生活するお百姓さんです。

──「お百姓さん」は誰かに何かをしてあげるだけでなく、自分の暮らしも大切にしていることがポイントですね。なぜ今のような活動を始められたのですか?

のらさん:元々、公務員で保健師としてフルタイムで働いていました。しかし、土曜日も出勤し、保育園のお迎えは一番最後がしょっちゅう。急いで帰り、晩ごはんを食べ、お風呂入れて寝かせて…生きている実感がなかったです。「このままじゃだめだ」と思いました。さらに保健師として、様々な家庭を支援する中で、自分や行政の限界を感じたことから、自分が地域の中でできることをしたほうが良いと思い始め、すでに子育てひろばをやっている地域活動に入れてもらいました。地域に出て、仲間と支え合いながらNPOなどで活動するほうが、私のやりたいことに近づけたんです。

── ご自身の大変だった過去が原体験になっているんですね。のらさんが現在の活動で目指したいこと、やりたいことは具体的にどんなイメージですか?

のらさん:私が目指すのは、畑や暮らしのワークショップをしながら、いろんな人が一緒に過ごし、ホッとできる場所。時間や空気など、見えないものを感じてもらって、お野菜が育つのをゆっくり待つような時間を体験できる機会を作りたいと思っています。

自分が子育て中のとき、保育園、家と職場の往復でホッとできる時間がなく、腹を割って子育ての話をできる人もいませんでした。周りのママさんみんな、忙しくてホッとできる場がないんだと気づき、「いつでも開いているからホッとしにおいで」と言える場を作りたいと思いました。その場が私の場合は畑。畑を一緒にやることで、私も畑に遊びにくる親子も元気になっていきました。

── 忙しい中でホッとした時間を作れる場は今とても必要とされている場だと思います。ホッとできる場を作るうえでのらさんが意識されていることはありますか?

のらさん:ワークショップも子育てひろばも、私は先生ではなく、一緒にやっている人というスタンスを意識しています。特に、親子が来る場作りではプログラムをしっかり決めずにやっています。「こうでないといけない」という根拠はなく、私の経験をお話しているので、「これはダメ」とは言わない。畑をするのも、「いろんなやり方があるよ」と話しています。ガッツリ学ぼうという人は向いてないですね。(笑)

── そんな中で、やりがい、やってよかった瞬間はどんなときですか?

のらさん:子育てひろばでは「のらさんの顔が見たくてきました!」と言ってくれるのが嬉しいです。先日、雪の日に子育てひろばを開催したんですが、「危ないから無理せずね」と伝えていました。しかし、「やっぱりのらさんの顔が見たくてきました」と言って来てくれた方がいて。「ひろばを開けていて良かった」と思いましたね。

畑では子供が喜んで食べてくれた、という声だったり、味噌作りでは去年作った人が「おいしい味噌ができた!ありがとう!」と言ってくれたり。味噌は1年熟成させますから、「1年後を楽しみにしています」と言ってくれる方もいます。ワークショップをやる楽しみですね。みつろうラップも「知らなかった!」と、喜んで使ってくれるのが嬉しいです。

エコな暮らしは強要しない。いつか気づいてくれたら。

初めて見るみつろうに感動の瞬間!

── のらさんは、どんなきっかけでエコな暮らしや農に近い暮らしを始められたのでしょうか?

のらさん:きっかけは、上の子供が17年前に生まれたとき。洗剤を使って洗い物をしていたときにふと、「この水が流れた先はどうなっているんだろう?」「私たちはこんなに便利な暮らしをしてていいのだろうか?」と、なんだか怖くなったんです。「この子が生きる将来は大丈夫?」と。何か私にできることをしたほうが良いと思ったのですが、その当時、エコな暮らしやオーガニックの情報はあまりなかったんですよね。まずは柔軟剤をやめてみたのが最初です。環境にやさしい洗剤にして、少しずつ「便利だから当たり前」と思っていたものを変えていきました。

── 当時は環境にやさしいことを売りにしているものも少なく、環境にいい=使いにくいイメージを持つ方も多かったと思うのですが、そんな中、今日まで環境にやさしい暮らしを続けられた要因は何だと思いますか?

のらさん:うーん、なんだろう。環境にやさしいものを使うほうが心地良かったんですよね。洗濯洗剤を変えると、今まで使っていた洗剤の匂いを受け付けられないようになってしまって。自分が受け付けるものを選んだら、環境にやさしいものになりました。オーガニックのお野菜も味が美味しいし、体が喜ぶような気がします。最初は分からなかったのですが、オーガニックの野菜を食べる機会が増え、実感するようになりました。

── 一方で自分が環境にやさしい商品を選びたくても、家族の理解が得られず、周囲と一緒に取り組む難しさもありますよね。のらさんの場合はどうでしたか?

のらさん:いくら自分がいいと思っていても周りが面倒と思うこともあるから、折り合いをつけながらやっています。私はみつろうラップを使うけど、夫はラップを使う。私は玄米を食べたいけど、子供たちは白米を食べたいので、お弁当は白米に。もっと暮らしに、環境にやさしいものを取り入れたい想いはあるけど、相手のやり方を尊重することも大事だと思っています。一緒に暮らしていても考えていることは違いますし。

── 強要するのではなく、家庭でのらさんが環境にやさしいものを使うことで、少しずつ暮らしに染み付いていくこともありえますよね。

のらさん:おそらく子どもたちはみつろうラップという言葉も知らないでしょうけど、目にふれているわけですからね。いつか将来出会ったときに「母親が使っていたものはこれだったのか」と気づいてくれたら嬉しいです。

生き物としての自分を感じる場作りを。

大人も子どもも笑顔になるのらさんのお味噌作りワークショップ

── のらさんはこれからどんな活動をしたいと考えていますか?

のらさん:種から育てた大豆でお味噌を作るワークショップをやりたいです。大豆の自給率はすごく低く、ほとんど輸入なんですね。さらに国産のオーガニック大豆はほとんどない。ワークショップを通して、「自給率が低いんだよ」「オーガニックの大豆農家さんを応援しよう」と伝えたいです。今、私の畑の周りに休耕田がたくさんあって、もし貸してもらえるなら、大豆の畑にしたい。手前味噌をもう少し流行らせたいんですよね。

この活動がきっかけでみんなの暮らしが意識が変わっていってくれたらと思っています。自分で育てたら、「虫がわくのも当然」「草が生えて大変」ってめっちゃわかるじゃないですか。でも商品になって、スーパーに並んだときには見えない。だからつい安いものを選んでしまう。スーパーに並ぶ姿になるまでに「こういうふうに育った」ということを経験できる場所を作りたいなと思っています。

── 点でしか見えていなかったものが、線でつながったような体験ができる場作りですね。この話をされているとき、のらさんの表情が素敵で、想いが溢れ出ていることが伝わってきます。

のらさん:お味噌や畑をすることで、自然の時間の流れを感じることができます。「どんなに急いでも、地球の巡りは同じように回ってくるんだ」と目を向けられるきっかけになったらいいなと思っています。
「生き物としての自分を取り戻す」という感じでしょうか。仕事の役割を持つ自分はすごく忙しいけど、自然の中にいるときだけは「私もこの中の一部やな」と感じられるんです。

── 「農家さんを応援したい」「オーガニックは土地を汚染しないから買おう」といった環境、社会貢献の意識も大切ですが、自分自身の生活の豊かさとして自然とふれあう時間を作りたいですね。ぜひ読者の方にメッセージをお願いします!

のらさん:暮らしの目からウロコのコミュニティ会員のみなさんが、みつろうラップに興味を持ってくれて嬉しい。素直に仲間が増えてうれしいです。ぜひ暮らしに取り入れてほしいと思いますが、そこはご自身のタイミングがあると思います。最初、手に取ったときに「良いな」と思っても、すぐに取り入れられないときもあります。すぐに取り入れられなくても、あとからその価値に気づき、使い始めることもあります。自分に合った楽しみ方をして、無理せず楽しんでいただけたらと思います。

(インタビューはここまで)

エコでエシカルな暮らしは環境配慮だけでなく、忙しい自分と少し向き合う時間を与えてくれるもの。「無理のない範囲でご自身の心地よい形を見つけてほしい」。のらさんからのメッセージは私たち、「暮らしの目からウロコ」のビジョンにも共通するものです。

忙しいと感じている毎日の中で、季節の変化や自分の内側に目を向けたくなる、のらさんの場づくりは私たちのロールモデルのような存在。この輪を一緒に広げていきませんか?

INFORMATION

山中貴代美

山中貴代美

NPO法人北区子育て支援センター理事。同NPO法人内で畑の子育てひろば「きたっこのらふぁーむ」を運営。また「農と暮らしのワークショップのらふぁーむ」として、味噌作りやみつろうラップ作りのワークショップを開催中。地域で子育て支援活動をするフリーの保健師。愛称は「のらさん」。野良仕事などに使われる「のら」という言葉が好きなことが由来。