上野淳子さんの写真

2024/12/10

愛の矛先が豚から人へ。両想いのブランディングに取り組み4年。ブランドオーナーに起きた変化

「もうみーんなのことが大好きになりすぎちゃったのよ!」

長崎県で養豚業を営み、豚肉のオンライン販売企画「まるごとん」のブランドオーナー。上野養豚の妻経営者、上野淳子さんはそう胸の内を打ち明けた。

それは「最近発信が気乗りしない」とのお悩みを受け、大元のブランド方針を作り、ブランディングをサポートしたメンバーが再度ヒアリングをした場での発言だった。「大好きになりすぎちゃった」とは、どういうことなのだろう?

今回は、aiyueyoでご提供している顧客・社員・自分と「両想い」になるブランディングを実施し4年経った上野淳子さんに実際に起こった実話を共有する。

すべては溢れる豚愛から始まった

2020年10月10日。
トントンの日に合わせて、上野養豚は月に一度のオンライン販売企画「まるごとん」をスタートした。

通常養豚では、養豚家は豚さんを適性な大きさまで育て、その後は屠畜を行う事業者に豚さんを販売する。そのため、養豚家自身が自社で育てた豚肉を販売するということは少ない。
販売するためには「買い戻し」「自らカットする」というフローが必要になるため、わざわざそのようにしているところは少ないのだ。
そんな中、上野淳子さんはそれがやりたくて、自社加工場を建設。

当時のX配信 #ウエノ加工所物語 より引用

そして販売のパートナーとして当時aiyueyoと名乗る前のTUMMYのあべなるみに相談をしてくれた。あべなるみは、野菜に顔をつけた販売企画yasaiccoに当時取り組んでおり、同じ匂いを感じたそうだ。

淳子さんは言った。
「上野養豚のスローガンは『豚が好きだ!かわいくって、おいしい!』です。愛情を込めて育てているからこそ、おいしく食べてほしい。そして部位ごとにお肉の味わいが違う。普通に流通したらなかなか食べてもらう機会がないウデやモモという部位がある。この部位が、実は本当においしい。こうした“ウデ子”や“モモ子”(実際の淳子さんの呼び方)の味わいの違いも知ってもらって、豚をまるごと、余すことなく楽しんでほしい!」

淳子さんが撮影する豚さんの姿。目線に愛がある。Xより引用

溢れる豚愛を受け、ブランディングプロジェクトはスタートした。目指すは、みんなで豚肉の部位の違いまで楽しんで食べる世界。オンラインショップ名を「まるごとん」とし、部位の違いを表現するポップな世界観を作り込んだ。

今まで言いたくても言えなかった「モモ子も、最高でしょー!」「ウデ子も男らしくていいでしょー!」という気持ちを淳子さんは堂々と表現し、まるごとんはスタートした。大きな愛に呼応してファンもつき始めた。

踏み出したからこそ繋がった、食卓の先の人たち

まるごとんの販売の呼びかけは主にXやインスタグラムで行われた。購入した生活者は自分が味わった感動体験を「#まるごとん」をつけ、それらのSNSに投稿した。

中にはあまりの喜びに長文のnoteを書く方が現れたり、

2023年に行った「推し部位選手権」では「あなたの推し部位を教えて!」という呼びかけに100人のファンが投稿をした。そして淳子さんの推し活も実り、1位モモ、2位ウデという結果も出た。まるごとんを始めた当初の想いは食べ手たちに届いていた。淳子さんは満たされていた。

同時に、芽生えてきた想いもあった。
それは少しでもラクに食べてほしいという想い。食べ手側の人となりや暮らしぶりがSNSを介して見えるようになってきたことで、それぞれが自分の仕事、やりたいこと、そして暮らし、子育てに大忙しな日々を送っていることが分かってきた。

淳子さんは味つき肉のセットや簡単レシピなど、少しでもラクに、でも楽しく食べてもらうアイデアを商品企画に込め始めた。

今の想いとブランドの方針を一致させる

食べ手の暮らしぶりへの思いやりが加速したのには理由があった。何より淳子さん自身が、養豚業の仕事に、自分がやりたくて始めたまるごとんの取り組み、そして3人の子どもたちの母として家族をサポートする。そのたくさんの役割に日々追われる当事者だったのだ。
自分と同じく、忙しくてもやりたいことをやって充実して生きていたい食べ手たち。そんな人たちを、淳子さんは単なる豚肉の消費者と捉えることはできなかったのだ。

想いが膨らんでいく中で、当初のブランドの方針「豚肉の部位の違いを感じてまるごと楽しむ」ことは、「発信しなければ」と気負わないといけないテーマになっていた。

今言いたいこととブランドとして言わないといけないことが一致しない。

それが販売数の停滞という結果にもでるようになり、冒頭の相談と発言につながったのであった。

しかし、淳子さん自身に何か問題があるだろうか。想いをもって活動したからこそ、新たに自分自身の想いが更新された。それはむしろ歓迎すべきことだ。
問題はブランドの方針が成長した淳子さんに追いついていないことだった。リブランディングの実施が決まった。

暮らしもまるごと、まるごとん

上野養豚があるのは長崎県のとある山の上。当然淳子さんが日々対峙するのは豚さんばかり。だからこそ豚さんにたっぷり愛を注いできた。そしてだからこそ、動きたくなった。そうしたら、その先の食卓が見えて、愛すべき存在が豚だけではなくなった。
淳子さん自身の目線が広がったのだ。

豚肉という、食卓をつくる一素材にすぎないけれど、あなたの暮らしをまるごと思って、少しでもラクで楽しくなるようにお届けするよ。

暮らしもまるごと、豚でつながる”おとんだち”として。

まるごとんの新ブランド方針が決まった。

水を得た魚のように淳子さんは息を吹き返し、言いたいことを堂々と言える自分に戻ることができた。

これからまるごとんで豚肉を購入する人には淳子さんから次のメッセージが届くようになる。

それは同じ当事者として、他の誰でもないあなたにまっすぐ向いたメッセージだ。
こうしてあなたを真っ直ぐ向いてくれる豚肉ブランドが誕生したわけだが、これを聞いてあなたはどのように感じるだろうか。
嬉しいな、好きだなと感じた方はぜひ「まるごとん」にて上野養豚のお肉を食べてみてほしい。

\まるごとんは毎月10日から15日までの販売!/
https://marugoton.official.ec/

両想いのブランディングとは

ここまで淳子さんが体験した両想いのブランディングの奇跡と4周年を期にしたリブランディングについて紹介してきた。ここからはこうしたブランディングを提供する側として思うところを書かせてもらおうと思う。

そもそもモノを売るという手法において、わたしはブランディングばかりが手段だとは思っていない。もっとバズを目指すやり方、キャンペーン・広告を活用したやり方など、早く広くリーチするやり方は他にもある。
そんな中、淳子さんのように、溢れた愛を分かち合いたい。それがすり減るようなやり方じゃなくて、むしろ愛が膨らんで返ってくるようなやり方で育んでいきたい。
そう願う方にはぜひおすすめしたい手法だと思う。

最近世の中を見ていると、成果を急いでも、その分厳しい意見に晒されたり、有名税と呼ぶには大きすぎる心理負担を伴っているように思う。

一方で事業主の愛ある営みは、心ない方に一蹴されていいものでは決してないのだ。

今回淳子さんと共にまるごとんを愛していく中で、わたしは4年立って、もうすでに素敵だった淳子さんが「わたしたちのことまで愛の対象にしてくださるなんて」という深い感動を味わうことになった。愛贈りへの愛返しへのさらに愛の倍返しみたいな。(伝わる?)

最後に、わたしは参加していないのだが、最近淳子さんが東京に降臨して、チームaiyueyoメンバーでもある食材スタイリストのみーるちゃんが主催する「ウィズみる」というまるごとんの食事会イベントがあった。その様子の写真を1枚だけ共有する。(TOPの笑顔の淳子さんの写真もウィズみるでの様子のものです。)

うーん。愛おしいね。愛は膨らむのだ。

ライター/あべなるみ