愛情深く「いのち」を扱う食の作り手を応援したいaiyueyo。込み上げる思いを形にして、作り手さんと手を取り合いながら進めるのがaiyueyo brandingです。食の作り手、そして食を受け取る人が、お互いを大切な存在と思い合えることを目的にして、日々それぞれの心の絆をつなげています。
この連載では、実際にいい関係性を育んでいる食の作り手にお話を聞き、どのような経緯や思いでaiyueyo brandingを行ったのか、食にまつわる「両思いの物語」をご紹介します。

今回は上野養豚さんの両思い物語をご紹介します。

長崎県大村市日岳の山頂で養豚を営む「上野養豚」の上野淳子さん。愛情をもって育てている豚たちを出荷する中で、モモやウデなど筋肉の筋の入り方が複雑な部位は細切れや切り落としとして販売されている事実を知りました。いつしか「モモもウデもとてもおいしいのに、バラやロースのように部位として知られないのはもったいない」と強く思うように。「モモやウデをもっとメジャーデビューさせたい、大切に育てた豚をおいしく食べきるようにしたい」という想いで加工所を作り、オンライン販売するようになりました。熱い気持ちを胸に、上野さんのチャレンジが始まります。

ブランドのコンセプトとして「豚をまるごと楽しむ月に一度のオンライン販売『祭り』」、そしてコアアクションとして「まるごとん」という企画名を立ち上げて、個性がある部位も楽しむ価値観の構築をすることにしました。aiyueyo brandingとしては、ここに至る「らしさ」の発掘からロゴの開発、ホームページ作成、コアアクションの企画といったブランドデザインをお手伝いさせていただきました。

わかってもらえた喜びと、かたちになったブランディング

── 「実はまるごとんの構想はブランディングを受ける前からある程度固まっていた」という淳子さん。なぜaiyueyo brandingを受けることを決意されたのでしょうか。

淳子さん:私は動物が好きでこの世界に飛び込んだ人間です。大学で動物のことを広く学びながら畜産に触れ始め、動物と関わる職業が色々ある中で養豚を選びました。動物が好きだからこそ命をいただくということに向き合いたいと考えたんです。いつも育てている豚たちもかわいくって仕方がないんです。

大切にしているからこそ、豚の全ての部位を皆さんに食べてもらいたいと思い、まるごと1頭の卸を受けてくださるお肉屋さんを探したのですが、なかなか見つかりませんでした。お肉屋さんのサービスとしては、よく売れる知られた部位を常時販売できるようにしておかなければならず、あまり知られていない上に手間が掛かるウデやモモを毎回1頭分のみ対応していただくのが難しいという理由でした。なるほどと思い、だったら自社サイトで自分たちができる範囲で1頭分まるごと売り切るスタイルでやっていこう、と企画を考えたのが始まりです。

ただ、それまでずっと畜産の世界しか知らない自分に不安がありました。畜産の事情など何も知らない方々にもちゃんと届けられるように、私たちの思いを翻訳してくれて、いろんな世界を知っているブランディングのプロにお願いしたいと思ったんです。

(幼い頃ムツゴロウさんに憧れ、動物が大好きになった淳子さん。豚のお世話をする時間は楽しくて仕方がない)

淳子さん:aiyueyo brandingにお願いしようと思ったのは、あべなるみさんの人柄でした。初めてなるみさんをSNSで見かけた時「なんて変な方だろう」と思っちゃったんです(笑)。もちろん愛を込めてですよ。
当時なるみさんは珍しい野菜をちゃん付けして販売していて、私も豚の部位に思わずちゃん付けしていたので、「あぁ、この人ならわかってくれるはず」と思って依頼をしました。
その頃、動物性食品を摂らない方々からの厳しい意見をいただいたこともあって、なるみさんなら豚たちがかわいくてしかたない私の気持ちもわかってくれると信じることができたし、何より一緒に楽しくできると思いました。

── 実際にaiyueyo brandingを受けられてどうでしたか。

淳子さん:aiyueyo brandingに提案いただいた「まるごとん」という名前がとても気に入っています。デザインなど一人では手が届かないところまでこちらの想いを尊重した上で作ってもらえました。

月1回の販売という前から考えていたことも応援してくれました。利益のために売り上げを上げることや、販売頻度を上げる提案をされるのが普通かもしれませんが、私が月1回にこだわったのは、私の暮らしを守るためでもあります。養豚が大好きなので仕事の時間は削りたくないし、かといって家族との時間を削ってまで販売したくはなかったんです。いかに楽しくやれるか、これは私の中でとても重要で、楽しい=自分の心が健康であることだと思っています。

ウデもモモも、もちろん他の部位も、どうしたらもっとおいしくなるのかとカットや味付けの工夫をして、こうしたらもっと良いかも、と試行錯誤しながら考えることがとても楽しいと気づきました。
「仕事をしながら楽しいって最高だな、食べてくれる方も一緒に楽しんでもらえたら嬉しいな」と思って、大切に育てた豚を丸ごと1頭、みんなで楽しくいただこうよ!というテンションでやりたいと思ったんです。なぜなら日常に「楽しい」は必要だと思うし、まるごとんをきっかけに食卓が楽しくなったらいいなと思ったから。なるみさんは私のその思いも汲んでくれて、お祭りというコンセプトを提案してくれました。

ブランディングはできて終わりではなくて、そこから自分たちで継続しないといけないもの。aiyueyo brandingでは、私の考えを否定せずに応援していただいて、楽しくあり続けるためのブランディングをしていただきました。

(ブランディングの過程で手がけた部位説明図。個性あふれる部位を楽しみながら食べてほしいという想いを込めてワクワク感を重視したデザインになった)

── aiyueyo brandingと進めた「まるごとん」。格別な思い入れになったという出来事も教えてくれました。

淳子さん:実はブランディングが始まった時、なるみさんも私も妊娠中だったんです。そのため途中でお互いの産休を入れたり、ミーティング中もお互い赤ちゃんのお世話を挟みながら進めたりしました。産休を挟みながらプロジェクトを進行させてくれたのが画期的だと思いましたね。おかげで体調を見ながら自分たちのペースで進めることができました。赤ん坊を育てながら進めていったという意味でも、まるごとんというブランドは私にとって子どものように愛しい存在です。

(約3ヶ月の産休を挟みながら進めた「まるごとん」。お互い出産後のミーティングでは、画面オフにしておむつを変えるなど柔軟に進めていたそう)

祭りは、100人に飛ばすラブレター

── 2022年10月に2周年を迎える「まるごとん」。今では発売開始した即日に完売することもあるほど大盛況です。

淳子さん:おかげ様で完売する月が続いてます。買えなかったファンの方もいらっしゃると思うと申し訳ないのですが、楽しくあり続けるために月1回というペースは続けたいと思っています。
ただ、応援してくださる方の気持ちに応えるために、今は1頭分の販売を将来的には2頭分、あるいは4頭分、と増やしたいと考えていて、「食べてみたい」と思ってくださる方にお届けできるように、努力していきます。でももしもそれが難しいときは「もう売り切れちゃったのか、しょうがないなあ」と笑ってくれて、一緒にまるごとんを盛り上げてくれるお客様と両思いになれたらいいな。1頭で40名分くらいになるので、今後の目標は、1回の販売で100名の方にお届けすることですね。まるごとんを応援してくれる100名に、ラブレターを届けるような気持ちです。

── ラブレターに想いや感謝を綴るように、淳子さんはまるごんを購入してくれるファンの方との交流も楽しんでいます。

淳子さん:まるごとんを購入してくれる方が「#まるごとん」で感想をつぶやいてくれるのが嬉しくて、できるだけお返事を返してます。一緒に働いてる夫や義両親にも感想を伝えると喜んでくれますね。

最近ではまるごとんを応援してくれる方々と「まるごとん隊」を結成しました。SNSでの発信を通して、まるごとんの祭りを一緒に盛り上げてくれる仲間たちのことです。すでにいろいろな方がメンバーになってくれていて、まるごとんとして販売する前からリピート買いしてくれていた方や、TUMMYやナエドコのメンバー、それに最近初めて購入してファンになってくれた方も参加してくれています。商品アイデアをみんなで考えたり、まるごとんの運営を手伝ってくれるなど、心強い存在です。

(まるごとん隊と定期的に行うお話会にて。完売したときはみんなで喜びを分かち合う)

淳子さん:まるごとんが走り始めた頃は私一人だけで運営していたので、正直辛い時もありましたが、今はこうして仲間がいるからこそ踏ん張れます。豚たちにも、まるごとんを応援してくれてる人たちにも、大好きという気持ちを伝え続けられているのは本当に嬉しいですね。

やっと出会えた。誰よりもファンでいてくれる右腕

(ちえこさんと娘さん。趣味は家庭菜園で、庭ではいろんな野菜やハーブを育てている)

── aiyueyo brandingのブランディングプロデューサーのちえこさんも、まるごとんに惹かれたファンの一人です。

ちえこさん:ある日、Twitterで「まるごとん完売」というツイートを見て、なんだろう面白そう、と思ったのがまるごとんを知ったきっかけでした。ホームページを見たら、ウデやモモなど聞いたことないような部位が紹介されていて興味が湧き、料理が好きなので試してみたくて早速購入したんです。

(ちえこさんが作ったまるごとんのスネを使った塩スープ。じっくり煮込むとほろほろになる)

ちえこさん:私はもともと食や農に関わる仕事に憧れて大学で農学を勉強したのですが、就職後もなかなか食と農の両方の分野で、仕事として携わる機会がなかったんです。ツイートを見て購入して以来、すっかりまるごとんのリピーターになったある日、「まるごとんの運営のお手伝いをしないか」と声をかけてもらいました。食と農の両方に関わるお仕事をしたかった私にとって、願ってもない嬉しいお話でしたね。

淳子さん:一人で仕事をまわすのが大変になって、誰かに手伝ってほしいと思ってた時に、ちえこさんもちょうどなるみさんの仕事のお手伝いを始められたときでした。なるみさんを通して触れたちえこさんの仕事ぶりに感動して、本格的に手伝ってほしいとオファーしたんです。

ちえこさんも面白い方なんですよ。何よりもまるごとんの大ファンでいてくれるし、私が何かこうやりたいというと「めちゃくちゃいいですね!!」と前のめりに一緒に盛り上がってくれるんです。本当に最高の右腕です。たまにがんばりすぎてないか心配になっちゃうくらいです。

(距離が離れているので基本的に打ち合わせはオンライン。お互い子どもの世話を挟みながらミーティングできるので安心感がある)

ちえこさん:まるごとんのお仕事ができるだけでも嬉しいのに、淳子さんの魅力的な人柄を知れたことも嬉しく思っています。人生の教訓になるような名言をさらりと言ってしまうところなど、一緒に仕事をしていて楽しいですし、尊敬しています。これからも淳子さんとまるごとんの魅力をお伝えしたいですね。

淳子さん:ちえこさんが側にいてくれることでがんばれます。私は決して、農業の未来を変えたいといったような高い志があるわけではないんですが、自分が思い浮かぶ大好きな人たちの笑顔を守りたい。その人たちの幸せを全て守るのは難しいかもしれないけど、まるごとんを届けることで「おいしい」と笑顔になってもらうような、時々のハッピーを提供することはできると思います。それが続けられるように、これからもがんばりたいです。

(インタビューはここまで)

わたし自身、まるごとんの美味しさに魅了され、毎月まるごとん祭りを楽しみにしています。まるごとんを頼むといつも淳子さんの手書きのメッセージが添えられています。まさしくラブレターですね。今回の話を伺いして、淳子さんが豚さんにも、一緒に働く仲間にも、私たち消費者にも愛を降り注いでくれているのだと感じました。
また、いかに楽しく取り組めるかをテーマに、ブランディングから仲間集めまで考えられているのが印象的でした。一緒に祭りを盛り上げる仲間をどんどん増やされていて、今後ますますまるごとんのお祭りが楽しみになってきました。

aiyueyoでは愛ある作り手のみなさんをこうした両思いづくりをブランディングという手段からご支援しています。詳しくはaiyueyo brandingのページもぜひご覧ください。

ライター/なんしゅ 編集/やなぎさわ まどか

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INFORMATION

上野淳子

上野淳子

長崎県大村市にある上野養豚を夫ともに経営。
自社ブランド豚「山のウエノ豚」を育てている。
昨日2020年10月10日に自社オンラインショップ「まるごとん」をオープン。