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2025/12/21
昆布が主役のお宿で、わたし、ととのう。~五感で味わう、富山の小さなリトリート~
昆布は、いつも脇役だと思っていた。だしを取るための素材で、料理を支える大事な存在だけれど、主役というよりは縁の下の力持ち。そんなイメージを長いこと持っていた。結論から言うと、一泊二日の滞在で、その認識はきれいにひっくり返った。

こんにちは!チームaiyueyoメンバーのくぅこです。「愛食」を日々楽しんでいるわたしたちaiyueyoにとって、何やら興味をそそるお宿との出会いがありました。それが今回訪れた、富山県高岡市にある「コンブハウス」です。昆布をコンセプトにした1組限定の古民家オーベルジュです。
はじまりは一杯の昆布水から
古民家を改修した宿は、こぎれいで落ち着いた雰囲気。到着してまず出されたのは、一杯の昆布水でした。
体にすっと入ってくるような、やさしい味。旅の緊張がほどけていくのを感じながら、少し休憩する。正直なところ、最初は少し物足りなさも感じたんです。水に近い、この淡さ。でもこの印象が、滞在の終わりには大きく変わることになります。

昆布の個性を、舌で知る
ひと息ついたあと、利き昆布水の時間が始まりました。利尻(りしり)、羅臼(らうす)、日高。3種類の昆布を使った昆布水を飲み比べます。
飲むと、確かに違いがある。香りの立ち方、口に含んだときの厚み、後味。でも、それを言葉にしようとすると難しい。ただ、オーナーの〝コンブさん〟から、それぞれの昆布の特徴や、向いている料理の話を聞くうちに、昆布が「だしの材料」から「個性を持った食材」へと認識が変わっていきました。
コンブさんは、高岡で生まれ育ち、この街を盛り上げるために昆布をコンセプトにした宿を始めた方です。昆布の話になると、控えめなコンブさんの、表情がうきうきした様子に変わります。産地のこと、使い分けのこと、日々の食卓でどう食べてほしいのか。どれも知識を披露している感じがなくて、ただ昆布の魅力と可能性を多くの人と共有したがっている。「昆布」を愛をもって推し活する人、という印象を受けました。

自分の手で仕込む、翌朝の楽しみ
夕食の前には、翌朝のための昆布締めを仕込みます。教わりながら手を動かし、新鮮な魚介のお刺身を昆布に並べていく。富山は魚介も有名な土地。「明日の朝、これを食べるんだ」と思うと、自然と笑みがこぼれました。
夕食は、もちろん昆布尽くし!といっても「昆布の苦行」という感じは一切なくて、一品ごとに使われ方が違い、「ここにも昆布が?」というおいしい驚きが続きます。具体的な料理は伏せておくけれど(滞在してのお楽しみになってほしいですかね)、だし、具材、巻くもの、締めるもの──昆布の可能性の大きさ、懐の深さに、しみじみ驚きました。

食事をしながら話していると、コンブさんがいかに昆布を愛しているかが、さらに伝わってきます。質問を投げかけると、嬉しそうに話が広がっていく。ここで過ごしていると、昆布が主役として扱われている理由が、少しずつ腑に落ちていきました。
夜まで続く、昆布の時間
夜には、昆布風呂という体験も用意されている。湯気の中で、香りや肌触りとして昆布を感じる時間。とろりとまろやかな湯触りで、上がったあともポカポカが続いたことには、本当に驚きました!さらに、昆布エステなるものもあるらしいです。ここまで徹底していると、驚きよりも、むしろ気持ちのよさが勝ってきます。
朝、昨日の続きを味わう
翌朝は、すっと目が覚めました。あんなにいっぱい食べたのに、お腹に不快感がない。昆布の食物繊維の力を感じながら、朝食へ。朝ももちろん昆布づくしです。前日に自分たちで仕込んだ昆布締めを、ここでいただく。時間をかけて旨みが移った食材は、前夜とは違う表情を見せてくれました。

昆布職人の技を、体で知る
次の朝、ゲストハウスから徒歩圏内にある昆布屋さんを訪れました。そこで見せてもらったのが、職人さんによるおぼろ昆布づくりです。
薄く昆布を削る手つきは軽やかに見えます。けれど、実際に体験させてもらうと、結構たいへん!まったくうまくいかないんです。職人さんは均一な厚みですーっと長く削れるのに、私がやるとすぐ切れたり、よれたりする。力加減、刃の角度、リズム。頭ではわかっても、体がついてきません。
それでも何度か削るうちに、少しずつ形になっていく。自分で削ったおぼろ昆布は、不格好だけれどもふわっふわで、思わず笑ってしまうほど嬉しかったです。


昆布を入口に、富山の文化に触れる
この旅を振り返ると、昆布を最大限に満喫しながら、富山や高岡市の歴史や文化に自然と触れていたことに気づきました。
なぜ富山で昆布なのか。なぜこの食べ方が根付いたのか。説明されすぎることはないけれど、体験を通して、土地と食のつながりがじんわり伝わってきました。
ただ泊まるだけの滞在ではない。食べることが好きな人、食の背景を少しだけ知ってみたい人にとって、ここはきっと、いい入口になる。

最初に飲んだ昆布水は、正直、少し物足りなかった。でも滞在を終えるころには、その一杯が旨みで満ちているように感じられました。滞在を通して変わったのは、昆布のイメージだけじゃない。昆布にあらゆる角度から触れることで、味覚や感覚がやさしくひらいて、自分のほうが、ととのったのだと思います。
ただ泊まるだけではない滞在。泊まって、食べて、触れて、学ぶ。昆布を通して自分の感覚が少しずつ研ぎ澄まされていく。そんな体験ができる場所でした。

みなさんもぜひ、「昆布でリトリート」体験してみてくださいね!
ライター/くぅこ






