大学院を修了後、PR会社に勤めて数々のブランディングに携わってきた岡山史興さん。その後独立し、70seeds株式会社を設立。Webメディアの編集長をつとめながら、スタートアップや地域の会社のブランディングを手がけてきました。相手の想いを「ことば」に変え、世の中に届け続けてきた岡山さんに、ブランドのことばを生み出す『ブランドのことばクリエイター』の仕事の魅力について伺いました。

ことばが人の心を動かすと知った高校時代

── 初めて”ことばの持つ力”を実感したのはいつでしょう?

高校時代、平和活動をしていた時ですね。わたしは長崎県出身で、生まれる前に祖母を原爆症で亡くしています。実母を亡くした父の悲しみを感じて育ち、小さな頃から平和と原爆が身近なテーマでした。

高校生になって、「高校生1万人署名活動」の立ち上げに携わり、その後高校生平和大使に選出されました。仲間たちと懸命に活動していましたが、時に無力感を覚えることがあったんです。署名が集まったところで核兵器はなくならないし、戦争を経験していない君たちに何がわかるんだ?と言われることもありました。だからこそ、自分たちがやっていることには価値があるんだ、と世の中に示していく必要があったんですよね。

そんな時、ある会場で平和についてスピーチしていたら、「微力だけど無力じゃない」ということばが自分の口から出てきたんです。わたしたちがやっていることは微力だけれど、世の中に働きかける力が確かにあるんだと。当時はインターネットもない時代。そのことばはたくさんの人の心に刺さり、活動が広がるきっかけになりました。

仲間たちと活動を続けた結果、その年の署名は4万人以上も集まり、わたし自身も平和大使として国連でローマ法王に謁見するまでになりました。「微力だけど無力じゃない」ということばはその後も共感を生み続け、20年以上経った今でも団体の合言葉のようになり、本のタイトルにも使われました。こうやって自分が普遍的なことばを生み出せたのは嬉しいですし、わたしにとって原点になっています。

「ビリョクだけどムリョクじゃない」は、現在も使われ続けている

どうやったら相手に共感してもらえるのか。仕事を通して実践しようと思った

── 平和活動をしていた岡山さんが、PRやブランディングの仕事に就くようになった経緯を教えてください。

関東の大学に進学してからも平和をテーマに学んでいました。ところが、関東では平和について話すと「真面目すぎる」とか「自分には関係ない」というイメージを抱かれることが多く、長崎にいた時とのギャップを肌で感じることがありました。

道路などで平和活動のデモをやっている人がいても、通行人の多くは心を動かされるよりも距離を置いてしまう。活動している人の想いや取り組み自体は素晴らしいのに、それがまったく伝わっていない。そんな現状がもどかしく、彼らの活動の価値を世の中に届けていくためには、新しい手法が必要なのではと問題意識を持つようになりました。

そして大学院修了後、どうやったら相手に共感してもらえるのか、どう伝えたら他人事が自分事になるのかを考え、実践していきたいと思いPR会社に就職することを決めました。

新卒で入ったPR会社には約5年間在籍し、さまざまな会社のブランディングに携わりました。仕事をしていくなかで予算のある大きな会社だけでなく、これから社会を変えていくであろうスタートアップや地方の会社など、スモールビジネスを展開する人の力になりたいと思うようになり、2014年に退職。起業することを決めました。

相手と同志になれるのが、ことばをつくる仕事の魅力

── 起業して、どんな方の「ことば」と関わるようになったのでしょう?

たとえば今ご一緒している熊本県にあるヤマチクという会社です。ヤマチクは日本でも数少ない、純国産の天然の竹にこだわったお箸メーカー。60年にわたって、一本一本のお箸を職人さんたちの手でつくってきました。

専務の山崎さんは「竹の、箸だけ。」をスローガンに、お箸に付加価値をつけ、竹を切る職人さんを支え、自社のブランドを確立してきました。

山崎さんは本当に熱量があって自分のことばでしっかりと語れる方です。だから、ことばをつくるというよりも、山﨑さんが放つことばを社会に広げていくための表現方法や届け方をともに考えて実行していくことがわたしたちの役割だと思っています。

そして今はまさに会社の信念である「ミッション」や「ビジョン」のことばを作っているところです。山崎さんのように熱い想いを持つ方と一緒にいると、この熱を実現するためにコミットしたいなとエネルギーが湧いてきます。普通に生きていると、それだけの熱を持てる対象ってなかなかないじゃないですか。でも、自分の「ことばをつくる」という力があることで、彼らのもやもやを一緒に解決したり、熱を倍にしたりしていく役割を担えるんですよね。相手と同志になれるのが、ことばの仕事の魅力のひとつですね。

山﨑さんとのお付き合いはもう5年ほどになりますが、ヤマチクは自社ブランドの売り上げがメインになっていたり、ファクトリーショップを開設したりとどんどん新しい展開を迎えています。自分たちがヤマチクの想いを広げることの一役を担えているとしたらすごく嬉しいですよね。

相手を理解したい。だからこそ、自分自身も信念を持って行動しつづける

── クライアントのことばを考える時に、大切にしていることはなんでしょう?

当事者の目線になるために、自分自身も信念を持って行動しつづけることを大切にしています。高校生の時から平和活動をしたり、自分の会社を興したり、何かしら世の中に対してアクションを取って生きてきました。だからこそ、同じく自分のテーマを持って行動されているクライアントの本気に対して本質的な部分で共感させていただくことができるんだろうなと思うんです。

今、ハッシャダイソーシャルという、若者に生き方の選択肢を届ける団体のリブランディングに携わっていて、ことばが生まれたところなんです。

── ハッシャダイソーシャルのみなさんは、高校・少年院・児童養護施設などでの講演活動をはじめ、若者の働き方の選択肢を広げる活動をおこなっておられますね。

代表のひとりである三浦さんは、先生になることが夢でしたが、ご家庭の事情で大学進学を諦め、高校を卒業してから車工場で働いていました。その後、チャンスを掴もうとめちゃくちゃ行動しつづけて夢を実現してきた方なんです。

人生に選択肢がなかった彼ら自身が、自分で選択肢を作りだしたり、周りのおかげで違う道に行くことができたりした。漠然としたテーマではなくて、自分自身が強烈に感じていたテーマだからこそ、彼らは本気で取り組んでいる。

わたしはそこで、相手の想いをなんとなくわかった気にならないよう、相手が何を目指しているのか、どこに痛みを感じるのか、苦しいこと、嬉しいことをひっくるめて理解していきたいと思っています。そのためにも、自分自身もちゃんと志を持って主体的に行動しつづけることを大事にしてます。

── 素敵です。ハッシャダイソーシャルの方と議論していく中で、どんなことばが生まれていったのでしょうか?

元々のスローガンである「Choose Your Life」をベースにした「Choose Your Life ! それでもなお、人生は選べる」というビジョンに始まる、ミッションやポリシーといった一連のことばたちです。半年くらい対話を重ねながら、会社のミッションやバリューといったことばを一から作り直しました。彼らを突き動かしてきた熱意や想いをことばにできて、彼らの晴れ晴れとした表情を見れた時、とても嬉しい気持ちになりましたね。

向き合うなかで思うのは、やっぱりタネは相手の中にあるということ。相手の中に宿っているものを削って、掘り出していきながらことばを考えます。掘り出し方が粗いと、なんだかぼやっとした伝わらないことばになってしまう。逆に掘り出す側の想いが強すぎて、自分流に削りすぎてしまうと相手の本来の姿を損ねてしまう。だから、相手が持っているものをいかに引き出して、本来の形に取り出していくっていうのがすごく大事なのかなと思います。

ブランドのことばクリエイターが活躍する未来

── クライアントの想いをことばに変えるブランドのことばクリエイター。一般的なライターとの違いはどんなところにありますか?

一般的なライターは「伝える仕事」で、ブランドのことばクリエイターは「届ける仕事」だと思っています。記事などを書く一般的なライターは、そこで起きたことや聞いた情報をいかに伝えていくかという仕事がメインですよね。でも、ブランドのことばクリエイターというのは、そのブランドを一度理解しきって、自分の中で咀嚼して、届けたい相手のもとに伝わる形にして初めて「届ける」ということになるので、そこが大きく違うのではないかと思いますね。

── ライター経験がある方は、ブランドのことばクリエイターにも活かせる資質があるのでしょうか?

必ずしもライター経験が必要なわけではありませんが、ライターをやっている方はもともと人に興味がある方々が多いと感じていてその特性はブランドのことばクリエイターの仕事にも生きると思います。自分が共感する未来を作ろうとしてる人に出会った時に「それ、わたしもそう思っています」と言えて、そこに対して行動までしてしまうような人が、きっとブランドに伴走してことばにしていく仕事に向いているのかなと。

── ブランドのことばクリエイターが活躍することで、世の中はどう変わっていくと思いますか?

ブランドのことばクリエイターが活躍することで、埋もれていた魅力的なモノや人が、世の中に知られ、認められていくというのは、きっとあると思っています。一方、ブランドのことばをつくる仕事が世の中に増えると、きっとクライアントは「誰と一緒に歩きたいか」で人を選んでいくことになると思うんですよね。だからこそ、クリエイター自身が魅力的であるとか、深いところで共感して一緒に歩んでいくことができる人かどうかがやっぱり大事になってくるのではないでしょうか。

共感力の高い人とか、相手のために行動できる人が世の中に増えたら、それだけで世の中はいい感じになると思いませんか。そういう意味では、ブランドのことばクリエイターという仕事がより一般的になったら、魅力的な人が増えて、より温かい世の中になるんじゃないかなと思いますね。

ライター/やまくぼ 編集/倉科優子

▼岡山さんから「共感する相手のブランディングを、言葉の力で自分らしく支えられる人」になるために必要な力や視点を学ぶ講座を開催しています。

INFORMATION

岡山 史興(おかやま ふみおき)

岡山 史興(おかやま ふみおき)

大学院を修了後、PR会社に勤め数々のブランディング案件を手がける。その後独立し、70seeds株式会社を設立。Webメディアの編集長をつとめながら、スタートアップや地域の会社のブランディングに情熱を注いできた。