2021/03/22

東日本大震災を都心で経験。心がぺしゃんこになってから今を幸せに生きるまで。

変わらないのも不安だし、変わるのも不安。どちらも不安なら、好きな自分でいられる方を選びたいですよね。

自然災害の恐怖と日常のありがたさを痛感した2011年の東日本大震災。現在「畑の魅力伝道師」である小池菜摘さんも、ハタケトの編集をしているやなぎさわまどかも、10年前はまだふたりともハタケとは縁遠く、東京都内で会社員生活をしていました。震災を機に暮らしを見直し、退職や田舎への移住、そしてハタケのある暮らしを選択したふたりはそれぞれ、この10年の変化をどんな風に感じているのでしょうか。

震災当日は山口県にいたため「東日本大震災は報道で見るばかりだった」というハタケト代表のあべなるみが進行役となり、「ハタケトになるまで」の10年を振り返るトークセッションを行いました。本記事では、2021年3月9日に実施したトーク内容を編集してお届けします。

信じていた日常のもろさを知った

なるみ:震災が起きた当日は、どこでどうしていましたか?

菜摘:わたしは当時勤務していた証券会社で日本株式の取引中でした。ビルの10階にあったオフィスは、モニターがバンバン倒れるほど揺れて恐ろしかったです。ところが、株はアクシデントがあると大きく変動するので、揺れが完全に収まる前から大量の問い合わせ電話がかかってきたんですよ。大地震の最中でもお金が頭から離れない同僚やお客様、それに対応せざるを得ない自分の状況に、強烈な違和感を覚えました。

まどか:わたしは帰宅困難者になりました。都内のオフィスから自宅までは電車で45分。情報もうまく得ることができない上に自分自身も緊急時に対して知識がなく、電車もそのうち復旧するだろうと歩いて帰り始めてしまったんです。途中で体力の限界を迎え、なんとか見つけられたネットカフェで一晩を過ごしました。

菜摘:金曜日だったこともあり、家に帰る判断をした人が多かったですよね。わたしも7時間歩いて帰りました。帰り道は液状化の被害が酷くて、高層マンションや車など、あの頃わたしが価値を感じていたものがあっけなく地面に沈んでいるのを見て虚しくなりました。

(ハイヒールが辛くなって途中から裸足で歩いた帰り道。すごく寒い日でした)

菜摘:途中でお腹が空いてコンビニに寄ったのですが、人がたくさん集まっているのに食べ物は空っぽ。わたし達は今まで餌を与えられて飼われていたのかもしれない、と思うくらい無力さを感じました。

まどか:わたしは歩いている途中で、自転車を買っている人も見かけました。クレジットカードの機械が使えないために隣の人とお金を出し合いながらやっと買っていたようで、そのくらいみんな、どうにか家に帰ろうと必死でしたよね。

あとで知ったのですが、オフィスのすぐ近くの大学がすぐに避難所として解放されていたんです。本来ならわたしは歩き出さずそこに避難した方がよかったわけですが、生きるための知恵も危機感も、本当に甘かったと思います。

信じられるものを求めてハタケへ

なるみ:おふたりとも好きな仕事をされていたと聞いていますが、それでも退職に至ったのはなぜでしょうか?

菜摘:起きてる時間のほとんど全てを費やすくらい大好きな仕事で、あの頃は真剣に、お金の大切さを信じていましたが、生命よりお金が優先されてしまうような経験をして、大好きだった仕事に誇りがもてなくなりました。それまで自分を支えてきた価値観が一気にぺしゃんこになってしまい、働き続けることは精神的に難しくなりました。

(お客さんが引くほどお金のことを考えていた当時の仕事ノート)

まどか:わたしは、いつ死ぬかわからないと初めて実感したことで、行きたい場所・知りたいこと・会いたい人など、日々沸き起こる小さな願望を無視して後回しにしていたことを後悔したんですね。もっと自分のために時間を使おうと決めて、慣習的にしたがっていた早朝出社や残業をやめました。就業後にはエネルギーの勉強会や農業のセミナー、震災ボランティアへの参加など、興味があることに時間を費やし始めました。

そうして勉強してみると、バラバラに見えていた社会の課題が繋がって、世の中の問題は全部わたしたちが生み出しているんだ、と気づいたんです。当時、農産物に対する放射能の影響を考えているうちに、不安を減らすためにできることを始めようとプランターにタネを蒔きました。それが今の自分のハタケへと繋がるのですが、結局その後、働き方と暮らしを見直して、退職を決めました。

(プランター菜園で初めてトマトが結実した様子)

菜摘:自分が信じられるものを選択したい気持ちはわたしもあります。当時、水道水の放射線量が基準値を超えたとニュースになり、言い表せないほどの恐怖を覚えました。自分はこれを飲むのか、と。結果的には飲んだわけですけど、かなり考えさせられました。

でも、夫の実家(現在住む岐阜県中津川市)に足を運んだ時にあまりの自然の美しさに感動して、例えこの水に放射能があると言われたとしても、わたしは誇らしく飲むだろうと思えたんです。夫の実家は農家だったので、将来的にいつか農業を継ぐ予定ではありましたが、早くハタケの近くで暮らしたくなりました。

(近くのキャンプ場にて)

感性を耕してくれたハタケ

なるみ:まどかさんはライター、菜摘さんはカメラマンや自治体の仕事など、農作業とは別にご自身の仕事を持っていますよね。ハタケを暮らしに取り入れることは仕事にどんな良い影響を与えましたか?

まどか:何から話すか悩むくらいたくさんありますが、一番感じるのは感性が高まったことだと思います。視界が広がったというか、目がよく見えるようになったというか。

菜摘:わたしも、ものごとを感じとる精度が高まったような感覚で、同じものを見ても感じ取れるものが格段に増えました。例えば会話している人の顔色や声のトーンなどの些細なことからでも、いつもとのちょっとした違いとか、何か考えていそうなことなど、たくさんのことがわかるんです。

なるみ:以前、いのちの解像度について書いてくれたコラムにもありましたが、会話してるだけでも感じ取れるものが違ってくるんですね。

まどか:ライターの仕事についていえば、話の奥にある真意を感じ取れることが増えたり、言い換えがしやすくなったかもしれませんね。

菜摘:写真の場合、ピントは合わせるものではなく、もう決まってるものだとわかるようになりました。それまではピントを合わせるところを探っていましたが、今はいのちが感じられる場所がピントであり、それを撮る、という感覚です。

(今まで考えたこともなかった「いのち」にピントを合わせられるようになったそう)

なるみ:どんな仕事にもプラスになりそうですね。感性が高まったのはなぜだと思いますか?

菜摘:よく見る、観察するからだと思います。ハタケを常に見ているので、一つの事象に対してなぜそれが起こったのか、これから何が起こるのか、去年との違いは何か、なぜその違いが生まれたのかなど、変化を文脈のように捉えるようになったんです。よく見て感じよう、わかろう、とするものが多いので、その積み重ねが暮らしに活かされてるんだと思います。

まどか:たしかに、うちはただの家庭菜園ですが、それだって野菜の成長に感極まることもありますね。ベテラン農家さんのなかには、風の匂いで天気がわかったり、指先で湿度を測れる人なんかもいますし、それはとても超人的ですが、微細なものを感じようとする積み重ねなのかもしれません。

(大根をしっかり育てられた時は感動で涙が出たそう)

なるみ:わたしは農作業のお手伝いに通ってましたが、自分で意思決定をして作業していたわけではなかったので、そこまでの感覚にはまだなれていないかも。ハタケの先にそんなに深い世界が広がってるんですね!わたしもこれから見えてくるものがあるんだと思えて、すごくワクワクします!

とりあえずジャガイモを植えてみよう

なるみ:最後の質問になりますが、これから生き方や暮らしを変えたいと考えている人たちは何から始めるといいか、先に人生を変えたおふたりからおすすめすることを教えてください。

まどか:真面目な話、ジャガイモを植えること、かな。

菜摘:そうですね、芋は偉大ですよ。ジャガイモは栽培が簡単でたくさん収穫できるし、自分で作物を育てられると生存の不安がなくなり、根本的な安心を得られます。それは心の余裕にも繋がりますから。

(こちらはキクイモですが、たった2つしか植えなかった種芋が50倍の量に増えたそう)

まどか:いのちがあるもの、の一生を見届けるのってすごく良いですよ。1つのタネが時間をかけて成長して、人間のお腹が満たされるなんて、それだけでもすごい奇跡みたいな感動があるし、その食べものが育っていくのを見ていると、変わることは少しずつでいいとわかります。また、ジャガイモを育てている途中で里芋に変化することはないわけで、自分はそのままででいい、ということも体感として理解できると思いますよ。

菜摘:すぐに植えることができない人は、ジャガイモを2袋買って、それぞれの小さな差や変化を観察したり感じようとしてみるのが良いと思います。どうしてその差が生まれたのか、その変化が起きたのか、突き詰めて考えてみてください。小さな変化に気がつくことが大きな違和感を無くすきっかけになるはずです。

(トークライブはここまで)

食べ物を自給できることは根本的な不安を解消し、心に余裕を生み出す。考えたこともありませんでしたが、納得の一言でした。いつ終わりを告げられるかわからない人生だからこそ、少しでも好きな自分でいられる選択をしていきたいですね。

トークライブ中には3人の人柄に思わずクスッと笑ってしまうような時間もありますので、ぜひアーカイブ視聴でも楽しんでくださいね。

(Photo by 小池菜摘)