2021/11/30

食の自給率は上げたいけど、毎年必ず取り寄せてしまう秋の幸【畑の魅力伝道師 やなぎさわ まどか】

※畑のそばの、豊かな暮らし発掘メディア「ハタケト」は、2022年9月1日より愛食メディア「aiyueyo」にリニューアルしました。

皆さん、こんにちは。ハタケトの編集担当、やなぎさわまどかです。味覚の秋、楽しんでますか?わたしは大好物の多くが秋〜冬に食べ頃となるため、今の時期は毎日、何かに対して「今年も会えたね!」という気持ちで向き合う日々です。その中でも外せない推し果実、について紹介させてください。

箱買いは柿から始まる

実家におけるみかん等、秋冬に箱買いする大好物はありますか?わたしの箱買いは、10〜11月頃の柿から始まります。購入先は母が移住した新潟・佐渡島の柿農家さん。箱を開けたときに「さすがプロ、お見事!」と拍手するまでが毎年の定番です。

ただ皮をむいてそのまま食べるのが一番シンプルで好きですが、サラダやお惣菜にして食事の際に食べることも多いです。一番よく作るのは、柿と同じ頃においしいカブと合わせたサラダ。少しだけ塩をきかせて水気を引き出したカブと合わせると、柿の甘みも一段と引き立ち、メインの付け合わせや箸休めにもちょうどいい感じになります。

柿もカブも、同じようにカットすると食べやすくなる。この日は春菊も一緒に。

柿はホットでもおいしいので、フライパンで色が付くまで焼いてから食べたり、パンに乗せてトーストやホットサンドにしたり、また、完熟の柿は上部をカットして丸ごとトースターで焼いたものを朝食にいただいたりもします。

した柿をスプーンですくって食べる、天然の柿プリン状態。この日はハチミツも乗っけてます。

高級チョコを超える濃厚干し柿

大人になってから好きになった食べ物といえば、干し柿。最初に惹かれた理由はあのおいしさもさることながら、そのままではとても食べられない渋柿が変容するという事実そのものに心を掴まれてしまいました。

うっかり渋柿を口したことがある方はご存知だと思いますが、渋柿はほんのひと舐めしただけで口の中ぜんぶがただれたように感じるトンデモ果実。でも実は、甘柿こそが突然変異だと言われており、その昔、柿はほとんどが渋柿だったそうです。渋みの原因・タンニンは干すと水溶性から変異するので、干し柿にすると甘柿の4倍とも言われるほど高い糖度に変わるんだとか。

どうですか、この事実。先人たちが知恵を絞り、何とか渋柿を食べられるように工夫した結果、干すというシンプルなことに行き着いた。この背景に、人間の健気さやいじらしさを感じずにはいられません。高級チョコのような濃厚さ、ドライデーツのように高い甘み、さらに保存食にもできるとなれば、もう柿が偉大な食べ物に思えてくるのでした。

干し柿は、皮はむきたいけどヘタは残しておく、という工夫にも先人たちの試行錯誤を感じます。リスペクト。
今年も今、干してるところです。無事に完成しますように。
こちらは昨年の、約1ヶ月間干し終えた完成形。
内側とろっとろ。絶品です。

わたしの母は佐渡島に移住し、今ではすっかり干し柿名人になったのですが、その母からの教えに従って、一度干したら柿には触れません。ただひたすら待つのみ。太陽と時間が生み出す成果はものすごいものがあり、人間はその間を繋ぐ役割なんだな、と実感します。

完成した干し柿はそのままおやつにしたり、お客さんに出したり、刻んでパウンドケーキに混ぜたり、冷凍保存しながらお正月料理にも使ったりと、慣れるといろんな使い方ができます。干し柿に限りませんが、おいしい保存食が家にある、もしくは自作できる、という事実は、そこはかとない安心感や自己肯定に繋がるようにも感じるのです。もしも、興味はあるけどまだやったことないという方は、ぜひぜひ干し柿づくりにチャレンジされてみてくださいね。

出張など長距離移動する際、バッグに忍ばせる非常食は、切り干し大根と干し柿。

仕込みは本当に簡単。柿酢の作りかた

いま借りている自宅の庭にも小さな柿の木があり、小ぶりながらも毎年よく実がつきます。食べきれずに下に落ちてしまうのは忍びないため、柿酢を作ることも増えました。柿酢は、柿を使った果実酢のことで、材料は柿のみです。水も何も要らないため手軽で、初めて作った時から毎回ちゃんとおいしいお酢になってくれます。

少ない量でも仕込めるし、甘柿でも渋柿でも作れるので、もしも手元に余らせてる柿がある方にはおすすめです。干し柿よりもずっと簡単(感覚的には1/10くらいの負荷)なので、おひとりでも、お子さんと一緒でもすぐできちゃいます。

柿酢にする柿は不揃いで全然問題ありません。

<用意するもの>
・保存瓶(熱湯消毒しておく)
・柿(熟してると発酵が早い)
・すりこぎ、または、木ベラなど
・ガーゼ、または、さらし布など

<手順>
1. 汚れや虫などを取るために、柿を軽く洗って水気を取る。
2. 枝やヘタを取る(酢酸菌や酵母菌が付いているので皮はむかない)
3. 柿を瓶に入れて、すりこぎで潰す。

完熟のから先に入れると潰しやすいです

4. まだ熟してない柿はカットして追熟を促す。

5. 空気が入るようにガーゼやさらし布で蓋をする。

仕込みはここまで。簡単です。

翌日からぷくぷくと発酵していくので、1〜2日に1回程度かき混ぜて、硬かった柿も液状になるように潰しながら1〜2ヶ月寝かせます。アルコール発酵からお酢に変わった目安は、混ぜた時に泡立たなければOK。ザルなどで固形物を濾し、その後も数回、細かいコーヒーフィルターなどで濾せば柿酢の完成です。瓶詰め後に火入れして発酵を止めてもいいですし、瓶の中で熟成させるのもおすすめ。数年寝かせて味の違いを楽しむのも面白いです。

ふつうのお酢と同じように使えるので、11月に仕込んだ柿酢が、早ければ1月のお正月、お節の「なます」作りに使えるんですね。材料は大根、人参、そして柿酢。自然の循環と作物と暦が、暮らしや慣習にぴったり合ってることに絵も言われぬ感動を覚える。これもまた、柿酢を仕込む喜びのひとつです。

ライター/やなぎさわまどか