aiyueyoは人にも地球にもやさしい暮らしを叶えたい企業や団体と手を取り合っています。本連載では日常の小さなエコアクションを応援するコミュニティ「暮らしの目からウロコ」と一緒に地球にやさしい暮らしを楽しむヒントをお届けしていきます。

今回は環境・社会・地域のことを考えて行動する人=ウロコ人の活動から、地球にやさしい暮らしのヒントを一緒に考えましょう。

飽食の時代と呼ばれる現代社会。過剰な生産と多大な食品ロスが世界中で大きなテーマとなっていますが、私たちが普段スーパーで購入する牛肉や豚肉などの畜産肉も、大きな課題を抱えています。家畜を飼育するために森林が開墾され、毎年264万ヘクタールの土地が砂漠化していると言われています。そんな畜産と環境問題のひとつの解決策として注目されているのが「ジビエ」です。日本の中山間地域では、現在鹿や猪の頭数が増え農作物に被害を及ぼすため、環境問題とは別の視点で問題視されています。日本の地域を救い、環境問題にも貢献するべく京都府笠置町で会社を立ち上げ活動をしている「株式会社RE-SOCIAL」の笠井大輝さんと江口和さんにお話を伺いました。インタビュー当日、立ち上げメンバーのもうお一方、山本海都さんはその日の朝に罠にかかった鹿を捌いていらっしゃいました。

※本記事には、鹿の精肉工程の写真が一部含まれます。苦手な方は閲覧にはご注意ください。

捨てられている鹿と猪に、目を背けることは出来なかった

手前左:RE−SOCIALの笠井さん/手前右:江口さん/後方右:鹿をさばいている最中の山本さん

── 株式会社RE-SOCIALさんは、現役大学生の3名で立ち上げられたんですよね?

江口和さん(以下、江口さん):はい、龍谷大学の政策学部で同じゼミに入っていた私と代表の笠井と、山本の3人で始めました。

── どうしてこの事業を始めようと思ったのですか?

江口さん:大学3年生までは3人ともジビエや狩猟に全く興味はなかったですし、自分たちが現在のような事業をするとは思いもしていませんでした。
大学の授業では、いろんな地域の課題に向き合い、それを解決する方法を考えることをしていました。例えば「高齢者の孤独死」をテーマに、どういう問題があってどうすれば解決できるかを考えて実際にアクションを起こすなどです。獣害被害もテーマの1つで、現状について詳しく学ぶために京丹後市にフィールドワークに行きました。そこで、地域の方に色々とお話を伺って、もう帰ろうかと言うときに声をかけられたんです。「そういうことを学んでいるなら、見ておいてもらいたいものがある」と言われ、山の中に連れて行ってもらいました。そこは、たくさんの鹿と猪が捨てられている現場でした。

── 鹿と猪が捨てられているというのはどういうことなんでしょう?

江口さん:増えすぎた鹿や猪が農作物を荒らしてしまうので、獣害駆除のために狩るのですが、狩った後の鳥獣は埋めるというルールがあります。ただ数が多く、埋める手が回らなくて結局山の中に捨てる、つまり放置するしかなくなってしまっていたんです。埋設場という名前ではあるのですが、実際は埋設されておらず、周囲はひどい臭いでした。環境的にも倫理的にも考えさせられる問題に直面し、これはなんとかしないとと3人とも感じて。

── まさに獣の死体の山を目の当たりにされたということだと思うのですが、「しんどい」という感情はなかったのですか?

笠井大輝さん(以下、笠井さん):もちろんしんどかったですけど、現状に直面すると「逃げられない」という使命感が強かったです。獣害問題について、学校の座学で勉強しただけだったらこの感情は生まれなかったと思います。リアルな現場を目の当たりにしたからこそ、放っておけない感覚になりました。ここまで知ったのに、何もしないというのは見て見ぬ振りをしているようで、無責任だなと思ったんですよね。それは3人とも同じ感覚でしたね。

江口さん:この現状は世間一般にはほとんど知られず、まるで動物が悪いと聞こえるように”獣害被害”という言葉だけで片付けられてしまっているけど、獣害被害の裏側で起こってしまっていることは変えていきたいと思いましたね。

笠井さん:僕たちが大学で学んでいたのは、地域課題をビジネスで解決するいわゆる「ソーシャルビジネス」の分野でした。だから、ただ大学の授業の一環として取り組むのではなく、ビジネスとしてきちんとこの課題に向き合っていかなければという責任感に駆られてこの事業を始めました。

命をいただくことが、生態系の保全に繋がる

── なるほど・・・。農家が受ける獣害被害という面ももちろんあるけれども、違う面から見ると「命」について考えさせられる、すごく重たいテーマですよね。これを事業としてやっていく上で、何か気をつけていることはありますか?

笠井さん:僕らが目指している未来は明るいものだということを感じてもらえるように意識しています。畜産や食肉について考える時、命をいただくことが悪いことみたいな風潮を感じるところがあるんですけど、僕らはジビエのお肉は食べる方がいいと思っていて。

── それはどうしてでしょう?

笠井さん:ジビエを食べることが生態系の保全に繋がると考えているからです。生態系をバランス良く保つための鹿や猪の個体数は算出されているんですけど、京都府下の現状は適正個体数の7〜10倍が生息していると言われています。本来は様々な生物が釣り合いを保ちながら営まれていた生態系なのに、鹿と猪だけが異常に増えている。特定の生物が異常に増えたことで、山の木々や草花などが食い荒らされてなくなっていってしまっているというのが現状です。

── 人の視点で見ると、「農作物が食い荒らされている」というのが現状ですが、環境という広い視野で見ると様々な植物が増えすぎた鹿や猪によって個体数が減り、生態系のバランスが崩れていっているんですね。

笠井さん:そうです。そしてその生態系の中にはヒトが果たすべき役割がきちんとあって、それが野生の肉を狩って食べることなんですよね。その人間本来の役割を放棄したから家畜が増えて畜産が環境に影響を及ぼしたりしているわけで。そこはもう一度その役割を果たす必要があるのではないかと思っています。

── 確かに、私たちが普段食べている肉のほとんどが畜産によって生産された肉ですよね。

笠井さん:さらに、一般的な食肉処理場って閉ざされていて、冷たい雰囲気がありますよね。命をいただくことがまるで悪いことのような風潮はそのイメージから来ているのではないかと思うのですが、その食肉業界のイメージも変えていきたいと思っています。僕たちの加工所の外観は木のぬくもりを感じられるようにして、僕たち自身が悲観的にならずに命をいただくありがたみをかみしめて接しています。

RE-SOCIALさんの活動拠点「やまとある工房」。2020年10月に食肉処理施設をオープンさせた

ジビエは、駆除ではなく収穫。おいしいことに意味がある。

取材中にいただいた鹿肉の土手煮。クセはまったくなく肉も柔らかく、本当においしかったです!

── 私たちお肉を買う側の人間は、「命をいただく」ことの意味や意義をきちんと理解して、向き合って受け入れていく必要がありますね。

笠井さん:そうですね。僕らがやっていることは、一般的には「駆除」したお肉を「処理」して販売しているということなんですけど、僕らは「駆除」ではなく「収穫」だと思っています。「意味があるから捕まえる」「おいしいから食べるし販売する」。その過程で、獣害被害を減らしていける流れです。農作物は「駆除する」なんて言いませんよね?おいしいから収穫する。それと一緒だと思っています。

── 駆除ではなく収穫、というのは目からウロコです!!私自身、地方の出身で鹿や猪にあまり良いイメージを持っていなかったのですが、お話を聞いているとジビエを食べることってすごく意味があることで、適切に収穫することが明るい社会につながっていくような感覚になってきました。皆さんが目指す理想の社会像について、教えてもらえますか?

笠井さん:僕たちは最近「Circle of life」という言葉を使っています。いわゆる生態系の輪を指すのですが、この言葉の概念を、ジビエの事業を通じて伝えていきたいと思っています。鹿の体のうち、僕たちが食べられる部分は2~3割なんですよね。残りは内臓や皮なんですが、一般的なジビエの事業者にとって残りの7~8割は廃棄する部分です。しかし、僕たちは、この部分もしっかり活用して捨てることなく、まさに命をいただこうと考えています。
内臓や骨はペットフードに、皮は鹿革として加工して名刺入れやクッションなどを作って販売していく予定です。余すことなく使うだけでなく、革製品の加工によって地域で雇用を創出することも考えています。これも、循環型社会の大切なところですよね。
僕たちがこの事業を始めるまでは、ただ「駆除」されて捨てられていた鹿や猪が、いろんな形で地域に恵みをもたらして、人もきちんと生態系の中の役割を果たし、命の輪が繋がっていく。それが僕たちが目指している社会です。

試作中の名刺入れやスマートフォンケースなど

味も見た目も、違いがあるからこそ楽しい

── 私たちが普段の暮らしにジビエを取り入れる楽しさには、どんなものがありますか?

笠井さん:背景を考えて食べると、楽しいですよ。僕たちが狩猟をしている笠置町にはいくつか山があって、山によって植生が違います。どの山で鹿や猪を獲ったかによってジビエの味が変わるんです。たとえば栗やどんぐりがたくさん実る山で育ったジビエは脂がのっているけど、笹しかない山で育ったジビエだと脂のりが少ないなど、味わいがまったく違うんですよ。他のお肉にはない面白さですね。

江口さん:鹿肉は栄養の面でも、高タンパク低カロリーで体に嬉しいお肉です。食べる部分だけじゃなくて、革にも個体差が出るんですよ。野生の獣なので、喧嘩した傷があったり、色や肌さわりもその鹿が育った環境によって変わったりするのがおもしろいんです。

── お肉も革も、違いがあるからこその楽しさですね!最後に、私たちが小さくても暮らしの中で貢献できることって何かありますか?

笠井さん:もちろんジビエを買って食べてもらうというのが一番ですが、ジビエにかかわらず、食べるものの背景について考えてみてほしいです。今日食べるこの牛肉はどう育って、どこからやってきたんだろうと、「命をいただく」ことを普段からきちんと考えることがとても大切だと思います。僕たちも元々、食品の背景は考えずに食べてきたのですが、いざ事業を始めると「こんな作業があったんだ」「こうやってお肉までたどり着くんだ」と発見がたくさんありました。普段から食べるものの背景を考えることで少しでも「Cicle of life」の輪の中に入ることが出来て、暮らしがより豊かになるのかなと思います。

── 食べるという行為が当たり前になりすぎて、その背景を考えてみると言うことはつい忘れてしまいがちです。今日から意識するだけで次に取る行動も変わってくると思うので、「まずは目の前の食べものについて考えてみる」ことはとても大切ですね!今日は本当にありがとうございました!

笠井さん・江口さん:ありがとうございました。

(インタビューはここまで)

今回、取材の中で実際に山で収穫した鹿を屠殺し、食肉用に捌く現場を見学させて頂きました。現場を実際に見ることで、命をいただくことの重みを実感した、というのも間違いではないのですが、お話を聞いた後に私が抱いた感想は「生態系の中の役割をきちんと果たさなければ」ということでした。自然の搾取はもちろん環境破壊に繋がりますが、Circle of lifeの中で必要な収穫があることはまさに目からウロコでした。私たちが口にする食べものがどこで育ち、どこからやってきたのか。その背景に思いをはせながら日々の食卓を囲みたいですね。

暮らしの目からウロコでは、笠井さんと江口さんをゲストにお迎えしたオンラインイベントを開催しました。畜産肉が環境に与える影響について学び、笠井さんから狩猟の現場のお話しを伺い、さらに江口さんによる鹿肉解体の実演まで!後半では実際に株式会社RE-SOCIALさんの鹿肉を使ったオンライン料理教室も実施しました。イベントの様子はアーカイブ動画として販売していますので、関心のある方はぜひご購入の上ご覧ください。

INFORMATION

株式会社RE-SOCIAL

株式会社RE-SOCIAL

代表取締役 笠井大輝 さん 
大学3年生時のフィールドワークで鹿や猪が大量に廃棄されている現状を目の当たりにする。この現状をビジネスで解決するため同じゼミの仲間である江口和さんと山本海都さんの3人でジビエの狩猟から販売までを行う事業で起業することを決意。2019年11月29日より事業を開始する。現在の事業は野生鳥獣の狩猟 、鹿肉の食肉処理及び精肉販売、ハラール対応鹿肉の食肉処理及び精肉販売、ペットフードの製造及び販売を行っている。

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