2022/09/01

お手伝いではなく、同志。初のブランディングによって意味が変わった援農のちから

元気な野菜を大切に育む農家さんたちを心から尊敬するaiyueyo。込み上げる思いを形にして、作り手さんと手を取り合いながら進めるのがaiyueyo brandingです。食の作り手、そして食を受け取る人が、お互いを大切な存在と思い合えることを目的にして、日々それぞれの心の絆をつなげています。
この連載では、実際にいい関係性を育んでいる食の作り手にお話を聞き、どのような経緯や思いでaiyueyo brandingを行ったのか、食にまつわる「両思いの物語」をご紹介します

(今回のブランディングでコアアクションとして手がけた畑のオープンキャンパス)

今回ご紹介するのは冨澤ファームさんの両思い物語です。仲間として共に畑を守り、冨澤ファームでの活動を成長の糧としてくれる方との両思いを実現されました。


東京都三鷹市の住宅街にある冨澤ファーム。四代目の冨澤剛さんは、先代のご両親と代々継いできた農地を守ってきました。ブランディングを本格的に始める2021年まで冨澤ファームを動かしていたのは、冨澤さんとご両親、そしてたまに訪れる援農ボランティアの方たち。
冨澤ファームの今後を考えたとき、人手不足問題を不安に思った冨澤さんは、援農の仕組み化を思いつきました。ただ援農を受け入れるのではなく、仲間が欲しいと考えたのです。そして人が集う農園にしたいという思いが芽生え、ブランディングをすることになりました。
こうしてブランディングを進め、ブランドのコンセプトとして「わくわくも育つ、畑大学」というコンセプト、そしてコアアクションとして月に一度「畑のオープンキャンパス」を実施することが決まりました。aiyueyo brandingとしては、ここにいたる「らしさ」の発掘からロゴの開発、ホームページ作成、コアアクションの企画などのブランドデザインをお手伝いさせていただきました。

(今回はブランディングプロセスの中で、発掘・規定・表現を手がけました。色がついている部分がお手伝いさせていただいた部分です)

(冨澤ファームのコンセプト。都内からのアクセスがよく立ち寄りやすいのも魅力の一つでした)

想像を超えていた、初めてのブランディング

aiyueyobrandingが提案した畑のオープンキャンパス。当初、冨澤さんはどう思われたのでしょうか。

冨澤さん:とてもいいアイデアだと思いました。僕は農家ですが、教員を目指した過去があります。誰かの背中を押すのが好きで、今も農家の傍ら短大で非常勤講師をしています。そういう僕の想いも汲み取ってくれたのか、オープンキャンパスというコンセプトを聞いてなるほどなと思いましたね。
普段は僕と両親で農業をしていますが、両親は高齢のため十分には働けません。一人でやっていくのは不安でした。また僕は農業以外に大家業をしていますが、大家業を学ぶスクールでコミュニティの仲間同士でいきいきと楽しそうに活動している参加者をみて、一緒に笑い合える同志がほしいと思っていました。そのためオープンキャンパスというコンセプトはしっくりきました。
ただ援農を定期的に開催して果たして人が集まるのだろうかと不安はありました。援農は畑に興味がある学生や社会人を中心に10年前から受け入れていますが、不定期開催でした。でも何もやらないのはよくないし、ブランディングを通じて冨澤ファームの旗印を立てたかったので、社会実験だと思って挑戦してみました。

(冨澤ファームのロゴでは、育てているのは野菜だけでなく人のわくわくや繋がりがあることを学校の紋章のようなデザインで表現した)

こうして始まった畑のオープンキャンパス。実際に開催すると思わぬ反響があったそう。

冨澤さん:思ったより多くの方が畑を訪れ、定期的に援農の方が来てくれるようになりました。また今回ホームページも思いっきりコミュニティに振り切ったのですが、野菜を買ってくださいと一言も記載していないのに野菜購入の問い合わせが来るようになったんです。
もともとうちの農園は販売先のお付き合いがあるので多くは売ることができないのですが、援農に来た方も帰りに野菜を買ってくれるようになりました。
またSNSとの相性もよく、拡散がうまく行き、多くの反響を得ることができました。
農場をオープンにしているスタンスが多くの方に伝わっているのか、その他にもいろんなお声がけをいただいてます。

畑のオープンキャンパスで出会えた仲間たち

オープンキャンパスでは一体どのような方が参加されるのでしょうか。

冨澤さん:畑に興味がある学生サークル、社会人サークルのメンバー、飲食店の従業員の方などいろんな方が訪れます。毎回3〜4名は新しいメンバーで、みなさんホームページを見て来られます。「東京 農業体験」で検索するとうちのホームページが結構上の方に出てくるみたいです。
畑のオープンキャンパスは毎月第4土曜日に開催していますが、前回は女子高生グループと客室乗務員の方がお見えになりました。普段なかなかめぐり会えない方たちで面白かったですね。
ナエドコ」のメンバーもよく来てくれますよ。リピーターで来てくれる方にはその方の好きなことや得意なことを活かして、お仕事もお任せしたりしています。

(冨澤ファームに集う人々。自分らしく心地よい働き方・暮らし方を見つけるaiyueyo主催コーチングワークショップ、ナエドコのメンバーも通っている)

まさに両思いな関係でお仕事ができている冨澤さん。普段心がけていることがあるんだとか。

冨澤さん:その方の得意なことや興味があることは、予想が外れる時ももちろんあるのですが、お一人お一人に確かめながらお仕事をしています。例えばある方は、野菜を育てるのが好きだったので、僕が管理しているマンションのトマト畑の整備を手伝ってもらっています。
皆さんとコミュニケーションをとって、興味がありそうかなと思うことを提案して、仕事をお願いしています。

愛がこもったパウンドケーキ作り

たくさんの両思いが生まれている冨澤ファームさん。現在会社員の脇坂麻友美さんも冨澤ファームに惹かれて通うようになったお一人です。副業でaiyueyoライターとしても活躍されています。

(冨澤ファームで冨澤ファームの野菜を抱えている麻友美さん。大好きな農家さんの野菜を抱えて写真を撮るのが夢だった 撮影:染谷ノエル)

麻友美さん:冨澤さんと出会ったのは、冨澤ファームの畑のオープンキャンパスがきっかけです。もともと定期的に援農したかったのですが、仕事で東京に引っ越してから農家さんの知り合いができず困っていました。あるとき、冨澤ファームさんのオープンキャンパスに通っていた友人が誘ってくれて、それ以来通っています。
定期的に通ってお話しする中で、友人と始めた推し農家さんの食材を使ったオリジナルの弁当を作るポップアップカフェプロジェクトにご協力いただきました。

(推し生産者さんの食材を使ったオリジナルのお弁当。冨澤ファームさんには春の野菜として人気の高いアスパラガス・のらぼう菜を提供してもらった)

現在は援農だけでなく、麻友美さんの得意を活かして冨澤さんと一緒にお仕事されているそう。

麻友美さん:冨澤ファームの野菜をたっぷり使った季節のパウンドケーキ作りのお手伝いをしています。
私は本業では管理栄養士として、フードスタイリングやレシピ開発をしています。今までのキャリアを活かして、少しでも冨澤さんのお役にたちたいと思い、週末にナエドコ同期の友人と一緒にパウンドケーキを作っています。

冨澤さん:もともとは東京・赤坂にある『東京オーブン』のシェフの方たちと作っていたパウンドケーキですが、現在は麻友美さんたちにお願いしています。よく援農にもいらして、冨澤ファームの野菜を使ってくれる東京オーブンさんがコロナ禍で経営に苦しんでるときに少しでも力になりたいと思い始めたのがパウンドケーキ作りです。冨澤ファームの加工場でシェフの皆さんと一緒に作り始めました。
野菜をたっぷり使ったケーキが好評で、aiyueyoのカタログギフトにも掲載させてもらってます。
今は状況がだいぶ回復してレストランの方が忙しくなったので、麻友美さんに手伝ってもらっています。麻友美さんは本業で栄養管理士の仕事をされているので、ぜひお願いしたいなと思って僕から麻友美さんにお願いしました。快諾してくれて嬉しかったです。僕は野菜をおいしく仕上げてくれる管理栄養士やシェフの方々を尊敬していて、同志のように感じているんですよ。季節ごとに野菜が変わりますし、簡単なレシピではないので、試行錯誤しながらよくがんばって作ってくれてると思います。

麻友美さん:野菜のパウンドケーキと一言でいってもただいつものレシピで野菜を変えればいいわけでなく、野菜の種類によって水分量も違えば、その日の気温によっても味が左右されてしまいます。野菜の下準備にも時間がかかったり、家庭用の道具で何十本も作るので結構大変ですが、好きなことができているので嬉しいです。私は平日は本業で忙しいので土日に通って作っています。

(パウンドケーキを作る冨澤さんと麻友美さん。仲間と協力して一つずつ丁寧に仕上げていく)

麻友美さんが冨澤ファームさんに惹かれたのはある出来事がきっかけでした。

麻友美さん:私にはもともと頑張ってる生産者の方、好きな生産者の方の力になりたいという思いがあります。原体験は学生時代に出会った生産者さん。畑で食べたとれたての野菜がとても美味しくて、素材の味を活かしたい、農家さんの魅力を伝えたいという思いが芽生え、料理の仕事を選びました。ですが、ただプロの料理家になりたいわけではなく、あくまで目標は生産者さんの魅力を発信し、人(生産者)と人(消費者)を繋げることでした。目標に近づくために何ができるか考えていたところ、ナエドコのプログラムを通じて夢が具現化したのです。その第一歩が大好きな農家さんの野菜を使ったお弁当のポップアップカフェプロジェクトでした。友人と一緒に農家さんの仕入れからレシピ考案、調理販売まで手がけました。もちろん冨澤さんにもお願いして、冨澤ファームさんの野菜も使わせてもらいました。
ただ初めてのお弁当販売でうまく行かないことが多く、販売日は思ったように売れずに落ち込んでいたんです。そんな時冨澤さんが突然現れて大人買いしてくれたんです。
ものすごく嬉しくて感動しました。今でも忘れられません。あの時から冨澤さんのお力になりたいと思うようになりました。

冨澤さん:僕ももともと頑張ってる人を応援したいという気持ちがあります。何かに挑戦されてるのでその背景に苦しい思いがあるのもわかります。ささやかかもしれないけど自分にできることで応援したいと思っています。
麻友美さんが頑張っている様子を見て、少しでも冨澤ファームが力になれることがあればなと思い、パウンドケーキの手伝いの話を提案しました。

(冨澤ファームの野菜・果物をたっぷり使ったパウンドケーキ。新たなレシピ開発も麻友美さんの夢だそう)


現在両思いの関係で、お仕事をされているお二人。お互いどのような価値を受け取っているのでしょうか。

冨澤さん:やっぱり麻友美さんが頑張っている姿を見るとエネルギーが湧きますね。もともと仲間で何かを作り上げたいと思っていましたし、何よりその仲間となる方たちには冨澤ファームを活用して、ご自身の自己実現や成長に繋げてほしいんですよね。麻友美さんはまさに冨澤ファームと使い倒していただけてると思うので嬉しいです。

麻友美さん:好きなことに囲まれて、好きなことを全力でできています。冨澤さんのもとでお仕事させていただくことで学びにもなりますし、自分のやりたいことや目標がどんどん具体的になってきています。何より尊敬できる農家さんのお手伝いをすることができて嬉しいですね。

(インタビューはここまで)

先日、冨澤ファームさんのパウンドケーキをいただきましたが、枝豆やとうもろこし、ブルーベリーなどたくさんの野菜果物が使われていて本当においしかったです。今回の物語を聞いて、冨澤さんと麻友美さんの両思いの絆がこのパウンドケーキを作り上げていると思うと温かい気持ちが込み上げてきました。作り手と受け手の間に強い心の絆が生まれるとお互いの喜び、そして更にできることも増えていきますね。

aiyueyoでは愛ある作り手のみなさんをこうした両思いづくりをブランディングという手段からご支援しています。詳しくはaiyueyo brandingのページもぜひご覧ください。

ライター/なんしゅ  編集/やなぎさわ まどか

INFORMATION

冨澤剛

冨澤剛

東京都三鷹市にて農園「冨澤ファーム」を営む。代々農家で現在4代目として120年以上続く農地を守り続けている。
80アールの畑で年間約30品目の野菜を栽培する。毎月第4土曜日には畑のオープンキャンパスを開催して援農を受け入れている。
三鷹市認定農業者、野菜ソムリエ、江戸東京野菜コンシェルジュなど多数の資格を保有し、短大の非常勤講師も務める。